咲彩のいいところ探し

ある晩のこと。神宿咲彩は悩んでいた。
「私のいいところって何だろう・・・」
悩みは自分の良いところである。このような考えは見た目に反して真面目な性格である咲彩にはよくあることなのである。
「ちょっと電話して誰かに聞いてみようかな。そうだなぁ・・・りんちゃんにしようっと!」
咲彩は防水カバーに入れたスマホで凛世の番号を表示すると電話をかけた。電話はすぐにつながった。
「はい、闇雲です。神宿さんこんな遅くに御用時ですか?」
「りんちゃん急に電話してごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何ですか?」
「りんちゃんから見てなんだけど、私のいい所ってどこだと思う?」
「・・・神宿さんのいい所ですか。そうですね、真面目で面倒見が良い所ではないでしょうか?私も神宿さんのそういった面に助けられたことは多いですよ?」
「それは何度か言われたことあるんだよ。それ以外で探しているんだ。」
「そうなんですか・・・でしたら私に明日一日付き合ってください。一緒に神宿さんのいいところ探ししましょうか?」
「いいの?」
「はい。神宿さんがいつも皆の悩みに寄り添ってくれたりしているのを私も感じています。なのですから神宿さんに悩みがあるのであれば解決を私にも手伝わせてください。明日の授業が終わったら駅前に来てください。そこからは私がエスコートしますから。」
「ありがとう、そう言ってくれると心強いよ、りんちゃん・・・」
「あの・・・随分と声が反響して聞こえるのですが、今神宿さんお風呂入ってます?」
「うん。日課だからね。」
「あまり長風呂をしすぎないように気をつけてくださいね。風邪をひいたりすることもあるのですから。」
「わかってるよ、もう出るつもりだったから・・・それじゃあ明日よろしくね。」
咲彩はそう言って電話を切った。
「りんちゃんに長風呂を注意されちゃった・・・もう少し気を付けないとなぁ・・・」
咲彩は電話を切った直後に風呂を出ると、髪と体を乾かして眠りについたのだった。

次の日。学校での授業を終えた咲彩は凛世に指定された場所に来ていた。場所は駅前のショッピングモールの前だ。
「りんちゃんが言うにはここで待っててって言われたけど・・・」
咲彩はスマホの画面を見ながら待っていると10分ほどして凛世がやってきた。
「神宿さんすいません・・・授業が長引いてしまいまして・・・」
「気にしなくていいよ。私も今来たところだから。」
「早速神宿さんのいいところ見つけちゃいました。」
「えっ、それってどこ?」
「数分の遅刻を怒ったりしないところです。」
「私だって時間管理してても小さい理由で遅れることあるもん。お互いに嫌な気持ちは持ちたくないからね。」
「神宿さんお優しいですね・・・」
「りんちゃんは近くに時間に厳しい人がいるの?」
「ええ、昔は愛麗が数分遅れただけで怒っていたので・・・よっぽどのことがない限りは約束の時間の15分前には来ているんですよ。最近はあまりそういうこともなくなったんですけどね。」
「らっちゃんも遅刻の理由を考えるようになったってことなのかな。」
「おそらくそうだと考えてます。では、買い物に行きましょうか。」

2人は最初に向かったのは凛世が希望した楽器店だった。
「りんちゃんはよくここで楽器を買っているんだよね?」
「はい。メンテナンスでもお世話になっています。」
「私楽器とか芸術は全くダメなんだよね・・・」
「それは意外でした。神宿さんは成績も優秀ですし、何でもできるイメージがありましたので・・・」
「私にだって苦手なものぐらいあるよ。本当に完璧な子なんていないって思うよ。」
「ですよね・・・ごめんなさい。」
「別にいいよ。それよりもりんちゃんは今日はどんな楽器を探しているの?」
「楽器は一式家にそろってますので自分でできるメンテナンス用の機材を購入しようと思いまして。」
凛世はそう言うと、メンテナンス用の道具を特に見もせずに手に取ると次々とかごに入れていく。
「そんなに適当に決めちゃっていいの?」
「こういう道具は長年使っているのでどれを買うかは決まってるんですよ。」
「そうなんだ・・・りんちゃんのその判断力もはやプロだね。」
「神宿さんも好きなものには詳しいのでは?」
「私はそうだね・・・入浴剤だったら自分の好きな香りをすぐに見つけられるかな。」
「お風呂お好きですものね。そういえば、新しい入浴剤のお店がこの近くの店舗にオープンしたという話を聞いたのですが行ってみますか?」
「いいの?私もそのお店気になってたんだ。」
「もちろんです。今回は機材の購入だけで楽器店での私の用事は終わりなので行きましょうか。」
「ありがとうりんちゃん。楽しみだなぁ・・・」

入浴剤専門店は楽器店からそう遠く離れてはいなかったので5分程度歩いてたどり着いた。中に入ると入浴剤の強い香りが2人の鼻に刺激を与える。
「神宿さんこの強い香りは何の香りでしょうか・・・」
「こっちはバラの香りでこっちはソープ・・・石鹸の香りだね。」
「このお店全体的に香り強すぎませんかね・・・」
「そんなことないよ。私はこういう刺激の強いものが好きなんだ。記念にどれか買って帰ろうかな。」
咲彩は強い香りに抵抗を示す凛世を尻目に興味のある入浴剤を選びに行く。
「これがいいかなぁ・・・あ、でもこっちもいいかも・・・これははるちゃんに買って行ってあげようかな?」
咲彩は夢中で入浴剤を次々と手に取る。その姿はいつもの落ち着いた咲彩と比べるとまるで子供の用だ。凛世はそんな咲彩の姿を見て口を開く。
「神宿さんのいいところまた見つけました。」
「え、それってどこ?」
「好きなものに情熱を持って突き進んでいくところです。」
「そうかな・・・誰しも興味があることになら全力で取り組むんじゃないかな?」
「いえ、現代の方は情熱を持って取り組めることが見つからないという場合も多いですからね。若くして好きなことを見つけられた私たちはある意味幸せなのかもしれませんよ。」
「それもそうだね。」
「神宿さん、よろしければ私にも入浴剤を選んでいただけませんか?」
「いいよ。りんちゃんの好きな色って何色?」
「すでにご存じだと思いますが黒です。」
「黒かぁ・・・りんちゃんの髪の毛サラサラできれいな黒色だもんね。それならこれなんかどうかな?黒色なんだけどバラの香りがするんだよ。」
咲彩が手に取った入浴剤は黒い色をしていてバラの香りがするものだった。
「色からは想像できないほど素敵な香りですね・・・」
「気に入ったみたいだね。それりんちゃんに買ってあげる。」
「いいんですか?ありがとうございます。神宿さんは太っ腹なところもいいところだと思いますよ。」
「太っ腹って言われてもあまりうれしくはないけど・・・ありがとう。」
咲彩は自分の買う入浴剤の中に凛世へのプレゼントである黒いバラの入浴剤を追加すると自分用に買った入浴剤と一緒に支払いをして黒い入浴剤だけを凛世に渡す。
「はい。よかったらお風呂で使ってみてね。」
「ありがとうございます。楽しみにしますね。」
「りんちゃんが少しでも入浴剤の魅力を知ってくれれば私は嬉しいよ。入浴剤の買い物も済んだし、次はどこへ行こうか?」
「神宿さんが決めていいですよ。今日は貴方のいいところを探すための買い物なんですから。」
「それなら、私の行きつけブランドのお洋服売ってるお店に行ってもいいかな?」

咲彩の行きつけの服屋は革ジャンやライダースジャケット、レザー系のアイテムなどロックで硬派な感じの服を取りそろえた店だった。
「随分と硬派なお店なんですね。」
「私の家お堅い方だから、反発する感じでロック系のファッションが好きになっちゃって・・・バイクを運転しているのもカッコよくて好きだからなんだ。」
「神社の子供も大変なんですね・・・私もこの見た目で中性的なお洋服のほうが好きなのでわかります。」
「りんちゃんもいろいろあるんだね・・・だけど私たち私服学校通ってるんだから自分の好きなもの着ようよ。周りの意見なんて気にしないでさ。」
「はい・・・そうですね。」
「今日買うのはこれとこれとこれと・・・」
咲彩は自分の買う予定だった服を次々にかごに詰めていく。
「入浴剤店でも思いましたけど、思い切りがいいんですね。」
「うん。ここでしか買えないものも多いから・・・それに今買わなかったら二度と買えなくなるかもしれないからね・・・あっ、これ!」
咲彩は商品がハンガーにかけられた場所の一角にあった紫色のスタジャンを手に取った。
「どうかしたんですか?」
「あっ、つい・・・らっちゃんに似合いそうな色合いでデザインだなって思って・・・」
「愛麗は紫好きですからね。普段はパーカーやカーディガンばかり着てますけど、スタジャンも似合いそうですよね。」
「らっちゃんがこれ着たの見てみたくなっちゃったな・・・買って行ってあげようか。」
「お値段は・・・4500円ですか。これぐらいなら私たちで出せそうですね。」
「うん。らっちゃんきっと喜ぶよ!」
「神宿さんのいいところまた見つけちゃいましたよ。」
「えっ、どこ?」
「今日一緒にいない方のためにサプライズプレゼントを思いつくところです。」
「たまたまだよ・・・」
咲彩と凛世は半分ずつ出して紫のスタジャンを購入したのだった。外に出ると空はすっかり暗くなっていた。
「もうこんな時間かぁ・・・今日はありがとうりんちゃん。」
「いえ、私も神宿さんのいいところや意外な一面を見つけるのが楽しかったのでまたよろしくお願いいたします。」
「それとさ・・・今からこれらっちゃんに渡しにいかない?」
「今から行くんですか?」
「うん。サプライズプレゼントだよ。早く行こう!」
「待ってください、そんなに急がなくても愛麗は逃げませんってば。」
咲彩と凛世は買ったばかりのスタジャンを渡すべく愛麗の家に向かった。

愛麗の家であるマンションには数十分ほどでたどり着いた。
「はーい・・・あれ、咲彩と凛世じゃん。何か用?」
「らっちゃん、これ受け取ってくれないかな?」
咲彩はスタジャンを包んだ袋を愛麗に渡しながらそう言った。
「随分と急なプレゼントだこと。誕生日でもないのに受け取れないわよ・・・」
「愛麗、私と神宿さんで選んだものなのです。受け取ってくれなかったら悲しいです・・・」
「凛世がそこまで言うなら・・・」
愛麗は遠慮がちに袋を受け取ると開封した。
「これ・・・スタジャン?色も好みだしかっこいいかも。今度着てみるわね。」
「愛麗が気に入ってくれてよかったです。」
「ねえらっちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「私のいいところってどこだと思う?」
「咲彩のいいところ?そんなのたくさんあるわよ。」
「それって・・・どこ?」
「あたしよりもリーダー向いてるし、美人で大人っぽいし、頭もいいんだから・・・そんなに謙虚にならなくてもいいはずよ?」
「らっちゃん・・・ありがとう大好きだよ!」
「ちょ、級に抱き着かないでよ・・・」
「神宿さん愛麗は私の・・・もう、それは今日だけですからね。」
「ありがとうりんちゃん!」
「(神宿さんはいいところいっぱいありますよ。面倒見がよくて好きなことにまっすぐで真面目で気配りもできる。だから気難しい愛麗や周りの皆様からも信頼されているんです。)」
愛麗に抱き着く咲彩を見ながら凛世はそう思ったのだった。

柚歌と抹茶色の髪

その日、柚歌は愛麗と一緒にデパートに来ていた。
「愛麗ちゃん急に呼び出したのに今日は付き合ってくれてありがとう。」
「別にいいわよあたしも用事なかったし。それよりも驚いたわね・・・柚歌があたしにペアルックしてくれなんて言うとは思わなかったから。」
「ジャケットの色を見ていたら真っ先に思い浮かんだのが愛麗ちゃんだったから。紫色の髪しているし・・・」
それは数日前のことである。柚歌の元にネット懸賞で応募していたデニムジャケットが届いたのだが、柚歌は大事なことを見落としていた・・・それはデニムジャケットが緑と紫のペアルックだったということである。サイズは柚歌がちょうどいいサイズなので、身長の高い陽瑚に来てもらうわけにもいかず、紫という色を見て思いついたのが自分よりは小柄ではあるが身長が近い愛麗だったというわけである。
「柚歌が喜んでくれたならなによりよ。だけど、このジャケット貰っちゃっていいの?」
「うん。ボク紫はあまり着ないから。」
「なら貰うわね。あたし上着はパーカーが多いからこういうの新鮮。」
「それでさ・・・ボクと2人きりで会うってことに凛世ちゃんとか怒ったりしてない?」
「凛世?問題ないわよ。このこと言ったら、色部さんなら私にとって大切なご友人ですから問題ありません。って言ってたし、それに今日は作曲ルームで一日中曲作りするから忙しいって言ってたしね。」
「そっか。よかったよ・・・」
「歩き疲れたしそこの喫茶店で休もうか。」
2人はデパート内の喫茶店に入ると席に案内してもらいメニューを見る。
「あたしカフェオレ飲むわ。柚歌は何がいい?」
「抹茶オレにするよ。」
「了解。じゃ、注文するわね。」
愛麗は店員を呼び出し、注文の内容を伝える。飲み物を待つ間、柚歌が口を開いた。
「ねえ愛麗ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな・・・」
「何よ?悩み事でもあるの?」
「そうじゃないんだけど・・・ボクの髪色ってどう思う?」
「柚歌の髪色?いいんじゃない、きれいなライトグリーンって感じで和琴の深緑とはまた違う感じがしてあたしは好きよ?」
「そういってくれると嬉しいな。少し前まであまり自分の髪色好きじゃなかったから・・・」
「なんで?」
「こういうところでいうのもなんだけど・・・カビた色って小学生のころに言われたことがあって・・・」
「・・・カビ?柚歌の髪色が?」
「うん。」
「カビってさ・・・本気でそう言われたの?言ったの誰?男?」
「いいづらいけど・・・男子だったかな。」
「ねえ柚歌・・・ちょっと怒ってもいい?」
「いいけど、場をわきまえて・・・」
柚歌が制止しようとしたがすでに遅し。愛麗は怒りモードに入っていた。
「馬鹿じゃないのそいつ!柚歌の髪は高級芝のような美しさがあるのに何もわかってないのね!・・・これだけはどうしても我慢できないから言わせてもらったわ。」
「(よかった落ち着いてくれた・・・愛麗ちゃん一度怒り出すと止まらないからなぁ・・・)」
「改めて言わせてもらうとあたしは柚歌の髪好きよ。だからカビた色なんて言わないで・・・色も好きだしお団子ほどいたら癖の全くないストレートヘアじゃん。あたしこんなウェーブのかかった面倒な髪質で嫌になることもあるから羨ましいわよ。」
「ボクは愛麗ちゃんのふわふわの髪可愛いと思うけどな。女の子っぽいし、なにより愛麗ちゃん全体的に可愛らしいから。」
「褒めなくていいわよ。スカートも履けないガサツなあたしだから男受けなんて最低よ?あたしの見た目だけ見ておっとり系だと思い込んで近寄ってくる奴多いんだから。」
「人によっては第一印象って大きいんだね。それともう一つ聞いていい?髪型は変えた方がいいと思う・・・?」
「お団子?周りからの受けが悪くても柚歌が好きでやってるんでしょ。だったら気にせず自分を貫きなよ。なにより、柚歌のお団子って草餅みたいであたしは好きよ。」
「草餅?それって喜んでいいのかな・・・」
「いいに決まってんでしょ。そういう髪型あたしは似合わないから羨ましいわ。」
「そんなことないと思うけど・・・」
「ヘアアレンジ自体は結構できるんだけど、中学校の時やって行ったら笑われて恥ずかしい思いしたからそれ以降あまり・・・それにカチューシャ外したくないから。」
「愛麗ちゃんといえばカチューシャって感じだもんね。まとめ髪でもカチューシャと組み合わせた髪型もあるし愛麗ちゃんの違う髪型もボクは見てみたいな。」
「あたしは下ろしたロングヘアとの組み合わせが好きなんけど・・・柚歌がそう言うなら機会あったら挑戦してみるわよ。」
「楽しみにしてるよ。たくさん種類持ってたりするの?」
「ヘアバンドとかリボンも数に入れれば100個。だけど使うのは数種類ぐらいかな。」
「色々集めてもコレクションになっちゃって自分で使うことがあまりなくなっちゃうよね。」
「そうね・・・それにさ、あたしの身体って身長低いくせに胸大きいからバランス悪いでしょ。そのせいでよくセクシーなデザインの服勧められるのよ・・・あたしはスポーティーとかカジュアルとかそっちの路線の服が好きだから迷惑でさ・・・」
「そうなんだ・・・陽瑚ちゃんもよく言ってるけどむ発育がいいのも大変なんだね。愛麗ちゃんのセクシー衣装かぁ・・・胸元を露出させたライダースーツと似合うかも・・・」
「人を使って変な想像してんじゃねえよ。」
「ごめん・・・」
「柚歌ってさ、明るそうに見えて結構ネガティブっていうか・・・自分に自信あまりないわよね。」
「ボクって昔から器用で結構いろんなことできたんだ。絵とかスポーツも夢中で取り組んで気づいたらいい感じのものできていたって感じだから・・・気になることを見つけるとどうしても気になっちゃうんだよ。」
「柚歌って分析とか推理得意だし頭いいもんね。だけどさ、これはどう思われるのかあれはどう思うわれるかとかいちいち考えてたら疲れちゃうわよ?」
「それって、図々しくならないとだめってこと?そういうのあまり好きじゃないんだけど・・・」
「あんたは謙虚だからね。図々しくなる必要なんてないわ。自分の軸を持つだけで結構楽になるものよ?柚歌の髪はカビ色じゃないしお団子も可愛いよ。もし今後何か言われたらあたしに言ってくれれば、そういうこと言う奴の相手してあげるから。」
「ありがとう・・・愛麗ちゃんがそう言ってくれるの心強いよ。」
「あたしはね、強さでつながる世界もあれば優しさでつながる世界もあると思ってるのよ・・・そうだ、この後ショッピングモールに移動して服屋でコーデ選びしない?」
「コーデ選びってなにをするの?」
「お互いに相手が着なさそうだけど似合いそうな服を選び合うのよ。それでお互いが気に入ったものを買ってプレゼントし合うのよ。対決じゃないから自腹買取とかはしなくていいわ。」
「なんか面白そうだね。いいよ。」
愛麗たちがそこまで話を終えると注文していたドリンクが来る。2人は飲み終えるとショッピングモールに移動した。

ショッピングモールに着くと、2人でコーデ選びによさそうな服屋を物色し始める。
「柚歌とあたしの趣味だと・・・あそこの店がいいかな?」
愛麗は様々なジャンルの服を中心に取り扱っているかなり大きめの服屋を指さしてそう言った。
「いい感じだね。あそこにしようか。」
「じゃ、服選ぶ時間は30分ね。時間になったら試着室の前に来ること。いいわね?」
愛麗は柚歌にそう言うと店の奥の方に入っていった。
「ボクも愛麗ちゃんに似合いそうだけど着なさそうな服探しにいこっと。」
柚歌も愛麗とは別の方向に向かい、服を探し始めた。

愛麗は店の奥の方で柚歌に似合いそうではあるが、本人が着なさそうな服を物色する。
「柚歌ってスポーティーな印象が強いけど、美少女顔で可愛いし睫毛長いから女の子っぽさが溢れる服も余裕で着こなせそうなのよね。なにがいいかしら・・・」
そんなことを考えながら服を物色する愛麗の目にある服が止まった。
「これいいかも・・・よし、これにしよう!ヘアアレンジも一緒にしてあげようかな。」
愛麗は目を付けた服とヘアアクセサリーを一式を購入すると、試着室の前に向かった。

一方の柚歌も愛麗に似合いそうな服探しをする。
「愛麗ちゃんにはこの際だからセクシーな服着てもらおうかな・・・」
考えながら服探しをする柚歌。その目にセクシーとまではいかないとはいえ、それっぽい服を見つけた。
「よし、これにしようかな。怒られるだろうけど・・・」
柚歌は躊躇いながらも目を付けた服を購入して試着室の前に向かった。

服を見つけた愛麗と柚歌は互いに選んだ服を受け取り、それを着ると試着室から出る。先に出てきたのは愛麗の方だ。
「やっぱりボディスーツにしてきたか・・・これサイズが小さいわね胸元開けないとキツイ・・・一応水着もあったからつけたけど、セクシー系の衣装はどうもなれないわ。」
柚歌が愛麗に選んだのはライダースーツに似たデザインのボディスーツだった。しかし、愛麗の胸が大きいため合わず苦しそうである。愛麗が出た数十秒後、今度は柚歌が出てきた。
「半ズボンのサロペットにカーディガンかぁ。ボーイッシュながらもガーリーさも感じさせる組み合わせ・・・これはボクも予想できなかったなぁ。」
愛麗が柚歌に選んだのは半ズボンのサロペットにふんわりしたカーディガンだった。
「ねえ柚歌・・・これもっと大きいサイズないの?胸がつかえるんだけど。」
「それ以上はなかったんだよごめん。どうしても見たかったから・・・」
「まあそれならしょうがないわね。柚歌がセクシー系の衣装をあたしに着てほしいって言ってたし、今日だけは着てあげるわよ。それと柚歌、ちょっと髪いじるわね。」
「えっ、ちょっと待って・・・」
愛麗は柚歌がお団子を解いて柚歌の髪をストレートロングの状態にすると、仕上げに先ほどのヘアアクセ・・・ヘアクリップを前髪に止めた。
「あたしと違ってサラサラのいい髪してるじゃない。その服ならそっちの髪型も似合うと思うわよ。」
「外で髪下ろしたことないのに恥ずかしいよ・・・」
「あたしに恥ずかしいデザインの服着せといてよく言えるわね・・・」
「だってぇ・・・」
「似合ってるから大丈夫よ。柚歌は自分が思うよりも可愛い女の子なのよ?」
「うーん・・・だけどまだ恥ずかしいから、こういう可愛い格好はもうちょっと勇気が出てからでもいい?」
「柚歌がどうしてもだめだっていうんなら無理する必要はないわよ。あたしもこのスーツ早く脱ぎたいし・・・今日はもう遅いし帰ろうか。」
「うん、そうしようか。長時間試着室を独占するとお店の人の迷惑になるしね。」
2人は試着室で元の服に着替え(柚歌は髪型も戻して)、買った服をしまうと今日はもう遅いので家に帰ることになった。

「愛麗ちゃん急な呼び出しだったのに今日はありがとう。」
「気にしなくていいわ。かっこいいデニムジャケット貰ったし・・・柚歌、最後にちょっといい?」
「何?」
「これあげるわ。さっき服を探していた時でいい感じのあったから買っておいたの。」
愛麗は柚歌に小さい袋を渡す。
「開けていい?」
「いいわよ。」
柚歌は愛麗からもらった袋を開ける。中にはライトグリーンのシニヨンカバーが入っていた。
「これ・・・貰っていいの?」
「うん。デニムジャケットのお返し。あんたお団子によくそういうの被せてるでしょ?さっきも言ったけど、あたしは柚歌の髪色もお団子も好きだから。それじゃあたしこっちだから・・・じゃね!」
愛麗はそう言うと、家の方向に向かって帰って行った。
「今日は皆が愛麗ちゃんは優しい人って言っている理由がわかった気がしたかも。もうちょっとボクは自信を持ってもいいのかもね・・・」
柚歌は貰ったシニヨンカバーを見つめながらそんなことを考えたのだった。

愛麗にお礼を

バレンタイン終了後のこと。咲彩と嘉月は今年も愛麗に教わって(というより2人はすでに慣れているから一緒にやっただけだが)チョコ作りを無事に終えた。
「今年もいい感じに作れたね。」
「せやな。
「ねえかづちゃん。ちょっといいかな?」
「なんやそんな急に改まって・・・」
「らっちゃんに毎年チョコ作りでお世話になってるじゃない?だからお礼したいなって思うんだけど・・・らっちゃんの大好きなものを私たちで作ってあげるっていうのはどうかな?」
「ええなそれ。賛成や。」
「それで・・・かづちゃんはらっちゃんの好きなものって知ってる?」
「ケーキとかよう作っとるし好きなんやないの?」
「だけど前にケーキとかのお菓子は食べるより作るのが好きって話を聞いたの。だから食べるもので好きなものは別にあるんじゃないかなぁ。」
「ウチも聞いたことあらへんな・・・知っとる人に聞いてみる?」
「そう都合よく知ってる人っているかなぁ・・・」
「おるやん・・・ウチらの中に一人だけ。今から電話して聞いてみるわ。」
「(らっちゃんのことよく知っているってことは・・・やっぱりりんちゃんかな?)」
嘉月は愛麗の好物を知っていると思われる人物に電話で連絡を取り、近くのカフェで話を聞くことになった。

着ていたのは愛麗と一番親しいであろうと思う人物・・・やはり凛世だった。
「凛世ちゃん、急に呼び出してごめんなぁ。」
「気にしなくていいですよ。それで私への御用は何ですか?」
「りんちゃんはらっちゃんの好物って知ってるかな?」
「もちろんですよ。恋人として愛麗の好きなものは把握してます。」
「それなららっちゃんの好きなものを教えてくれないかな。」
「いいですよ。ですが・・・理由を聞かせてください。友人であるお二人のことを信用していないわけではないですが気になるので。」
「ウチら毎年愛麗ちゃんとチョコレート作りしとるんやけど・・・」
「毎年材料や器具、作る場所準備してくれたり細かい所教えてもらったりでお世話になってるからお礼がしたいの。」
「なるほど、そういうことでしたらお話しします・・・愛麗の好きなものはたい焼きです。織田倉本舗のたい焼きが一番好きって言ってました。」
「それなら水萌ちゃんのお店で買えばええんやないの。」
「駄目だよ、手作りには手作りで返した方がらっちゃん喜ぶと思うよ。」
「私の家でも期間限定でたい焼きパフェを出したのですが愛麗の受けは悪かったのですよね。愛麗は餡子のたい焼きが好きというわけではないのですよ。」
「餡子が好きじゃないってことはカスタードクリームのたい焼きが好きなのかな?」
「いえ、違います。愛麗が好きなのは織田倉本舗で販売しているショコラたい焼き・・・つまりチョコレートクリームのたい焼きです。これは情報通の松姫さんでも知らないことだと思いますよ。」
「そういえば前にみなちゃんが餡子とカスタード以外にチョコのたい焼きを売っているって言ってたなぁ。」
「たい焼きまでチョコ味を好んでるんやな・・・せやからあんなにチョコの加工が上手なのかもしれへんな。」
「それと、私もお二人に協力させてもらえませんか?愛麗に毎年チョコケーキをいただいているので、たまにはお返しをと思いまして。」
「ええよ。3人でつくろ。」
「たい焼きを作るには専用の型が必要だよね、誰か持ってる?」
「私の家にある物で良ければ持ってきますよ。たい焼きパフェが廃止された今は使ってないので・・・」
「凛世ちゃんに相談してよかったわ。調理は地下書庫に料理部で使っとるキッチンあるからそこでやろ。」
「私は型を取ってきますので先に準備をしていてください。」
咲彩たちは一通りの材料を店で購入し、地下書庫の厨房に行って準備を始める。凜世はいったん家に戻り、たい焼きの型を取りに行った。
「それじゃ役割分担だね。私がチョコクリーム作るよ。かづちゃんは外の生地を作ってね。」
「おまかせやで・・・と言いたいところやけど、何で生地作ったらええかな。調べたらホットケーキミックスで作る生地もあるみたいなんやけど。」
「普通に薄力粉を使った奴でいいと思うけどらっちゃんが作るお菓子って洋菓子の方が多いし、ホットケーキの生地も喜ばれるかもね。」
「せやな・・・それなら両方作ったろ。」
「それなら私も多めにチョコクリームを作るよ。」
調理を初めてしばらくするとたい焼き器を持った凛世が調理場に駆けつけた。
「たい焼き器持ってきましたよ。私は何をしますか?」
「りんちゃんはその型でたい焼きを焼けるように油を塗って準備しておいて。」
「分かりました。私はお二人と違って料理はあまりしないですからね・・・よろしくお願いします。」
嘉月と咲彩はそれぞれの担当に専念し、凛世はそれが出来上がるのを型を準備しながら待つ。そして数十分後・・・
「チョコクリームいい感じに仕上がったよ。」
「ウチも生地2通りできたわ。」
「では、この型に生地を流し込んでその上にチョコクリームを乗せましょうか。この作業は私にやらせてください。」
「大丈夫なん?」
「ええ・・・音楽やってますから。」
「音楽とこの作業に何か関係あるのかな・・・」
凜世は嘉月の作った生地を型に伸ばしながら流し込むと熱せされた型からジュワーといい音がする。その上に咲彩が作ったチョコクリームを乗せた。
「よし、これでいい感じですね。」
「後は上から生地をかぶせて蓋を閉じて焼くだけやな。」
「これは私がやるよ。りんちゃんばかりに負担はかけさせられないから。」
「では神宿さん、よろしくお願いしますね。」
咲彩がチョコクリームの上に生地を再び乗せた後、たい焼き器の蓋を閉じてコンロの火にかける。火にかけて数分後・・・たい焼きは魚の模様がくっきりと浮き出た綺麗な焼き色に仕上がっていた。
「いい感じの焼き色だね。これなららっちゃんも喜んでくれそう。」
「冷めたらラッピングして明日学校で愛麗に渡しましょう。」
「せやな。愛麗ちゃんきっと喜んでくれるわ。」

次の日。凛世たちは愛麗を地下書庫に呼び出した。
「愛麗、来てくれてありがとうございます。」
「急にどうしたのよ3人揃って・・・」
「これ、受け取っていただけませんか?」
「ウチらで作ったんや。」
凛世が代表してラッピングされたたい焼きを愛麗に渡した。
「何これ・・・たい焼き?3人で作ったの?焼き目もきれいで上手にできてるじゃない。」
「いつもお菓子作りを教えてくれるお礼だよ。中身は餡子じゃなくてらっちゃんの好きなチョコクリームだよ。」
「あ、ありがと・・・急にこんなに貰っちゃってなんか悪いわね。返してくれるならホワイトデーでも良かったのよ?」
「私たちは今愛麗にこれを作って渡したかったので、イベントなんて関係ないんです。」
「そう。それにしてもあたしがチョコのたい焼きが好きだなんてよく知ってたわね・・・あ、凛世が言ったんでしょ。チョコのたい焼きが好きなんて凛世以外に言ったことないもの。」
「その通りです。神宿さんと雷久保さんに相談されたので教えちゃいました。」
「まあいいわよ、一個食べていい?」
「うん。もちろんだよ。」
愛麗は袋からたい焼きを1個取り出して食べる。
「んー・・・美味しい。あえて外皮にたい焼きの皮じゃなくてケーキっぽい皮にしているのも悪くないわね。」
「それはホットケーキの粉で作ったんや。普通の皮のやつもあるから心配ないで。」
「皮の質感とか食べただけで分かるんですね・・・」
「何年お菓子作りしてると思ってんのよ。こっちの方が普通のたい焼きの皮より好きかも。」
「らっちゃんが喜んでくれてよかった。また来年のバレンタインもよろしくね。」
「もちろんよ。それ以前に大事な友人からの贈り物を喜ばないわけないでしょ。ありがとね!」
愛麗の喜ぶ顔を見れた3人は心がほっこりした気持ちに包まれたのだった。

嫌味先輩の嫌味な家族

私には大切な娘がいた。しかし、娘は問題を起こしたとされて好きだった活動を停止させられてしまった。それからまったく元気がない。私は・・・娘を陥れた水晶学園とそのきっかけを作った生徒たちを許さない。娘を陥れた連中にはどんな手を使ってでも復讐してくれるわ。

所変わってここは騎ノ風TVの本社。1人の男がレポーターとして活動する和琴の姉である松姫宇織に声をかける。
「松姫さん、ちょっといいかい?」
「なんですか嫌川さん?」
「君妹さんいたよね?連絡先教えてくれないかな?」
この男は嫌川嫌三。最近コネ入社で管理職に就いたのだが、一応騎ノ風TVではそれなりに地位のある位置にいる。
「急になんですか・・・妹を紹介しろって急に言われてするわけないじゃないですか?」
「君の妹にどうしても用事があるんだ。彼女の落とし物を拾ってね・・・届けてあげたいんだ。」
「私から渡すのでその落とし物渡してください。」
「・・・君が妹さんの連絡先を教えるのが嫌だっていうのなら、君を解雇したって構わないんだけどな?」
「解雇・・・特権使って脅しですか?それパワハラじゃないんですか?」
「変わりはいくらでもいんだよ。俺の特権でお前の言われたくないヒミツを電波に流して放送したっていいんだぞ?」
「(覚えてろよパワハラ糞野郎・・・)」
宇織は脅されて仕方なしに嫌三に和琴の連絡先を教えた。そしてこれは騎ノ風市中を巻き込んだ事件に繋がるとはまだ誰も知る由もなかった。

宇織が脅されてから数日後のこと。和琴に差出人不明の一通の手紙が来た。
「なんなのよこれ・・・ええと、命が惜しければあんたの持っている情報を全て持って地図の場所に来なさい・・・っていまどきこんな誘いに乗るやついないでしょ・・・」
和琴がそう口に出した瞬間スマホが鳴った。通話相手は非通知・・・おそらくこの手紙の差出人である可能性が高いだろう。
「はい、何なのよ・・・」
「松姫和琴だな。お前の友人のデータが欲しい。持って送った地図の場所にある裏路地に来い。」
「あんた手紙の差出人?あたしに脅しかけるならもっとうまい手を考えてからにしなさい。確かにあたしは友人の情報ならある程度持ってるけど・・・怪しい奴に渡せるわけないじゃないの。」
「ほう・・・なら、お前の姉がどうなってもいいのか?俺はあいつに圧力をかけられる。」
「姉さんに圧力?ってことはテレビの関係者?」
「そんなことはどうでもいい。来るか来ないか、どちらかの権利しかお前には与えられていない。」
「・・・分かったわよ、行けばいいんでしょ!」
和琴はやりたかったことをようやく形にしている宇織を引き合いに出されたせいで断ることができず、データを持って指定された場所に向かった。

数分後、和琴は指定された場所に着いた。裏路地は騎ノ風市の中でも特に人に目が付きにくい場所にあった。
「・・・ここでいいのかしら。」
「松姫和琴。ここまでご苦労だった。」
和琴の前にどこからか覆面をかぶった男が現れた。
「電話の相手ってあんた?」
「そうだ。さっさと君の友人のデータを渡してもらおうか。」
「持ってきたけど渡さないわ。やすやすと個人情報を渡すもんですか。それにここに来る前に警察に連絡したのよ・・・あんたたちはもうすぐ逮捕ね!」
「チッ・・・だったら力ずくでいただく!」
覆面の男は裏路地に隠れていた仲間を呼ぶと、集団で和琴に襲い掛かった。
「やっぱりこんなことだろうと・・・きゃっ!」
襲い掛かってきた人物の一人が和琴の髪を引っ張り、その隙に別の一人が後頭部を殴った。
「うっ・・・」
「気絶したか・・・探せ!」
覆面の男は気絶した和琴の身体をまさぐり、データの入っていると思われるSDカードを見つけた。
「よし、これだ!ずらかるぞ!」
男はSDカードを手に入れると仲間と共に去って行った。和琴は直後に駆けつけた警察によって保護され病院に運ばれた。身体に別条はなかったが、一日だけ検査のため入院することになった。

愛麗たちにはその日のうちに和琴自身から怪しい集団に襲われたということを伝えられた。
「和琴が襲われたって本当!?」
「はい・・・怪しい男の集団だったそうですよ。」
「いつも思うのですこの市の警備は何をやっているのでしょう・・・」
和琴の入院している病院の個室の前に着くとドアを開ける。
「和琴、見舞いに来たわよ。」
「悪いわね・・・」
病室に入るといつもより調子悪そうな和琴が横になっていた。
「和琴さん、大丈夫ですの?」
「ああ、問題ないわよ・・・ちょっと頭殴られただけよ。ただ、ある物を奪われてね。」
「何を奪われたんですの?」
「あんたたちの情報が入ったSDカード。」
「なんでそんなものもってんの・・・」
「色々調べるのが好きだからあたしは。」
「あんたを襲った男の集団ってどんな奴らだったの?」
「そうねえ・・・若い男というよりはどちらかというと中年っぽい感じだったけど・・・覆面をしていたから分からないけど。」
「それよりもなぜ男たちは和琴さんの持つわたくしたちのデータを奪ったのでしょうか・・・」
「知らないわよ。JKに興味がある変質者集団だったんじゃないの。それよりも男に体まさぐられた・・・もう誰とも付き合えない・・・」
「いつも女の子たぶらかすくせにこういうところでは繊細ね和琴は。」
「それならわたくしの所に来てくださいな。」
「天宮城・・・ありがとね。」
「ま、元気そうでよかったわ。」
「それでは長居しても失礼しますね。」
「急な入院だったのに悪かったわね。明日には復帰できると思うからー。」
愛麗たちが帰った後、検査を終えた和琴はその日のうちに退院し次の日からは普通の生活に戻れることになった。

次の日のこと。騎ノ風市役所前の電子掲示板にはとんでもないものが流れていた。
「みんな、大変だ!」
「そんなに慌ててどうしたのだ水萌君。」
「せっかちなのはよくないよぉ?」
「お前らのんびりしてる場合じゃないぞ!これ見てみろ!」
水萌はスマホの画面をその場にいた咲彩、苺瑠、陽瑚に見せた。
「なにこれ?」
「市役所前の掲示板にアタシらの家のことで全く覚えのないガセネタが流されてるんだよ。」
画面に映っている電光掲示板には織田倉本舗の和菓子は不味いだの、東条寺秋(声優である陽瑚の母の芸名)はわいろを使って役を得ている、立屋敷家の五つ子はクローンとして生み出された怪物などという事まで流れてきていた。
「ええーっ・・・お母さんは自分の力で声優の仕事を勝ち取ってるんだよぉ。賄賂なんかしてないのにぃ・・・」
「我らをクローン生物とは随分な物言いだな。」
「これ拡散止めないとまずいよ・・・それに他の皆にも伝えないと・・・」
「今ここにいない他のみんなはこの件について話すために地下書庫に集まっているってさ。アタシらも行くぞ!」
「うむ、わかったのだ!」
「みなちゃんいっちゃん、授業はどうするの?」
「さあちゃん、今はそんなこと言ってる場合じゃないよぉ。」
「咲彩、今はアタシらはこっちの問題を解決するのが優先だ。」
「しょうがないなあ、だけど授業放棄するのなんて初めてで罪悪感が・・・」
咲彩は緊急事態でも真面目なようだ。

水萌たちが地下書庫に着くとコンピュータールーム近くの机に、すでにみんな集まっていた。
「来たぞ!」
「水萌!!上のドア閉めてきたよね?」
「悪意のある方が万が一ここを嗅ぎつけてしまえば終わりですから。」
「この件は鮫川センセに相談済みやから、今日は授業でなくても問題あらへんよ。」
「先生も後で様子を見に来てくれるっておっしゃってました。」
「味方してくれる大人が少しでもいると助かるな。」
「これで全員揃ったってことでよさそうね。」
「それで今はどんな状況なんだよ?それと和琴お前入院してたんじゃ・・・」
「もう問題ないわ。鷲岳たちがコンピュータルームでこの個人情報をばらまいている発信源がどこなのかを調べてくれているわ。」
地下書庫の奥にあるコンピュータルームではエレナ、環輝、奈摘の3人が情報の流出した場所を調べるためにパソコン画面と向き合っていた。
「ねえ3人とも、何か分かったのぉ?」
「分からない・・・今環輝ちゃんたちと全力で調べはつくしているけど・・・」
「この情報がどっから流失したのか突き止めらんないのー!」
「数日前に和琴さんが襲われたことと関係があると思うのですが・・・わたくしパソコンはゲームするのにしか使わないのでこういうのは慣れませんわ。」
「ことちゃん、襲ってきた集団ってどんな人たちだったの?」
「顔はわからなかったけど・・・覆面をした男の集団だったわね。それと、あたしがあんたらの情報の入ったSDカードを持ってたことを知ってたわ。」
「ってことはアタシらに恨みがあるやつの可能性が高いな。」
「近い場所にいる相手だってことも考えられるよね。」
「そういえば、姉さんが見舞いに来た時、上司にあたしの連絡先を教えてって脅されたから教えちゃったとか言ってたんだけどそれと何か関係あんのかしら。」
「その上司の名前覚えてる?」
「嫌川嫌三とか言ってたけど・・・」
「嫌川か・・・どこかで聞いたことがあるような気がするのだが思い出せんな・・・」
「私たちはどうしてこうも変な方々から被害を受けてばかりなんですかね・・・なんだか悲しくなってきます。しくしく・・・」
「凛世、世の中には分かり合えない、自分さえよければ他はどうでもいい、相手を叩き潰したいとか考えている存在もいるのよ。」
その時地下書庫の入り口で音がした。鮫川先生が入ってきたようだ。
「お前ら、大丈夫か!」
「先生!」
「このような時間に学校を抜けてきて大丈夫なんですか?」
「学園には事情を話してある。だから問題ない。それにお前らは私の生徒だから、危険な目に合っているなら協力するさ。」
「みんな・・・個人情報を流している発信源が突き止められた。」
「それでどこなん?」
「騎ノ風TVみたい。」
「おかしいですわね。騎ノ風市内の電光掲示板はそれぞれ近くにある公共施設が管理しているはず。わたくしたちのガセネタが表示されているのが市役所前の電光掲示板であるのなら、市役所からでないと操作ができないはずですわ。」
「だとすっと考えられるのは、市役所のコンピューターをハッキングしてTV局から操作をしているっていう可能性だし。」
「TV局だけじゃなくて市役所関係者にも協力者がいるって考えられるよね。」
「せやけど、市長の崇子さんがそんなことする人を下に置いとるなんて考えられへんよ・・・」
騎ノ風市の市長は28歳の女性大王崇子が勤めている。愛麗たちとはとある事件に巻き込まれてから親しい間柄であり、騎ノ風市をより良い方向に向かわせようと様々な政策を立てている騎ノ風の新世代を造り出す革命児と言われていて市民からの信頼も大きい。嘉月はそんな崇子が悪事に平気で加担するような人を部下に置いているとは考えられないのだろう。
「こうなったら何人かでTV局に乗りこむ?原因が分かればガセ情報の流出止められるかもしれないわよ。」
「あたしが行くわ。元々、この事件はあたしが襲われさえしなければ起こらなかったはずなわけだしね。」
「和琴、昨日退院したばかりで病み上がりじゃないの?」
「心配しなくていいわよ。自分の手で収束させたいから。」
「アタシも行くか。戦える奴が多いほうがいいだろ。」
「環輝も行くよ。パソコン分かるやつがいたほうがいいっしょ?」
「それなら私もついて行こう。お前たちに危機が迫ったら守れるようにな。」
「先生・・・よろしく頼むわね。」
騎ノ風TVには和琴、水萌、環輝、鮫川先生の4人でへ向かうことになった。

~騎ノ風TV~
数十分後。和琴たちは騎ノ風TVの本社にたどり着き3階の放送スタジオに向かう。しかし、騎ノ風TVは今現在放送中のはずなのに受け付けや警備の人間も含めて誰一人見当たらない。
「おかしいわね・・・姉さんだけじゃなく他のスタッフやプロデューサー、ADすらいないわ・・・この時間にこんなことはありえないはずなのに。」
「警備の人間や受付の連中もいなかったな・・・」
「もう疲れたんですけどー・・・」
「環輝、もし疲れたら私の背中に乗れ!お前一人ぐらいなら背負える。」
「ありがと先生・・・」
TV局の階段を登り切り、放送スタジオにたどりついた。しかし、ここにも誰もいない・・・と思いきや物陰から一人の男が姿を現した。
「おやおや可愛いお嬢さんたち。ここに何の用事かな?」
「誰だ!」
「そんなに警戒しなくてもいいだろうに。俺はここの取り締まりをしている嫌川嫌三だ。」
現れた男は嫌川嫌三。和琴の姉を脅した張本人でもある。
「あんたね。姉さんを脅して無理やりあたしの連絡先を聞き出したのは・・・」
「俺がそれを行った証拠があるのかい?」
「姉さん・・・いや、松姫宇織から聞いたのよ、あんたに解雇するって言われて脅されたってね!」
「ほう、松姫さんの妹が直々に着て下さったのか。ばれてしまったのならしょうがないな確かにお前らの偽情報を流したのは俺さ。これも可愛い妹への復讐のためだ!」
「復讐に妹だと?なんのことだ?」
「やはり加害した側は自分の罪をきれいさっぱり忘れるんだな。俺の妹は嫌川ミシルだよ。お前らのせいで活動どころか部屋から出られなくなってしまったがな!」
「嫌川ミシルって・・・週刊誌部を自称してアタシらのガセ情報をばらまいていたあの先輩の身内だったのね・・・」
「嫌川先輩って最低だったし。」
「あいつには色々と苦労を掛けさせられたな・・・」
「ふん、お前らにはそうでも俺には可愛い妹だ。俺たちは男兄弟ばかりだった。だが、やっと6番目に念願の女の子・・・ミシルが生まれたんだ。俺たちはミシルに深い愛情を注いでここまで育てたんだ。」
「どうせ捏造記事を書くことを面白ければなんでも正義とか教えた上に甘やかして育てたんでしょ?」
「黙れ!その妹を再起不能にしたお前らを再起不能にするために今ここで叩き潰してくれるわ。お前ら位置につけ!」
嫌三がそう言うと、TV局のスタッフたちが武器として使うのか鉄パイプや角材などを持って和琴たちの周りに現れた。
「こいつらは俺の奴隷みたいなものさ。俺は騎ノ風TVでは社長ではないが上の地位にいる。今社長はいない。だから俺が今は権限のトップにいるのさ!解雇通知をちらつければ何でも言うことを聞いてくれるんだよ!やれ!」
「すいません!」
パイプを持ったスタッフの一人が和琴に向かってパイプを振りおろす。和琴はそれを受け止めて社員の方に投げ返す。パイプが顔面に激突した社員は倒れてしまった。
「嫌川さんに逆らったら、私たちは首になってしまうんです!」
今度は別のスタッフが水萌に向かって角材を振り下ろしてきた。水萌はそれを受け止めた。
「お前ら、それでもこのTV局の社員なのかよ!」
「仕方ないでしょ、この市のTV局はここだけ・・・しかも嫌川さんはいろいろ場所に顔が効くお方・・・首になったら二度とTV業界に携われなくなる!」
「・・・環輝。アタシらがこいつらを相手しているうちに嫌川が悪事をしている証拠を探してくれ。」
「了解だし。」
「それと先生は環輝について行って。」
「それだと水萌と和琴が危険じゃないか。」
「先生、環輝は頭はいいけど身体能力はあまりよくない。だから手助けしてやってほしいんだよ。」
「あたしたちは大丈夫だから・・・ね?」
「・・・わかった。無事でいろよ。行くぞ環輝。」
「おーけー・・・ミッション開始っしょ。」
鮫川先生と環輝は嫌三とスタッフたちにばれないようにこっそりとTVのデータを管理している制御室の方へ向かった。
「「「俺たちもやるぞ!嫌川さんの命令に背くな!!!」」」
スタッフたちは次から次へと和琴と水萌に襲い掛かる。とはいえ、構図が2対多なので防御をするので手一杯。そんな中、和琴が口を開く。
「あんたたちそれでいいの・・・」
「え・・・?」
「あたしの姉さんはね、TVのリポートの仕事が本当にやりたくて束縛だらけの母の元を抜け出してようやくここに入ることができたの。なのに一緒に仕事しているあんたたちがあんな腐った人間に従うだけの愚かな愚民だったことに対して幻滅したのよ!」
「お前みたいなガキに俺らの気持ちが分かるか!」
「当然分かるわけないわ!だけどこれだけは言える。あんたたちからTVへの愛は全く感じないってことがね!偏見報道を推薦するこいつに従って番組作りをすればそれでいいって考えている奴らにTV番組を作る資格なんてあるわけないし、絶対にいい番組なんか作れるはずもない!」
「それに騎ノ風TVのやつらは民放テレビ局の連中と違って真摯にテレビを愛するやつが多いって聞いたんだが・・・見当違いだったようだな!」
「TVの事も知らない生意気なガキめ・・・やっちまえ!!!」
TV局の社員たちは怒りに身を任せて和琴たちを袋叩きにしようとする。和琴は社員たちが繰り出す攻撃を上手く変わし、男女問わず社員たちに急所攻撃をかます。激痛にTV局の社員たちは一人残らず倒れてしまう。一方の水萌も襲い掛かってくる社員たちにカウンター攻撃を浴びせて全員気絶させた。
「なんとか片付いたな・・・」
「最近の大人って運動不足で弱いのよね・・・後はあんただけよ嫌川!」
「この役立たずどもめ・・・こいつがどうなってもいいのか!」
嫌三は近くの部屋に閉じ込めておいたと思われる宇織を人質に取りどこから取り出した刃物を首にあてがう。
「姉さん!」
「和琴っ!」
「卑怯なやつだな・・・」
「我が嫌川一族にとって卑怯は最高の褒め言葉だ!さあお前ら、こいつの命が惜しければ抵抗するのはやめろ!」
と思ったとき・・・環輝と鮫川先生が制御室から戻ってきた。
「あんたたち!証拠は掴ませてもらったし!」
「警察にも連絡させてもらった。お前たちは終わりだ!」
「・・・なんだと!?いつの間に・・・」
「和琴と水萌がスタッフたちといざこざをしている間に電光掲示板で悪事を働いた証拠のデータは全部取らせてもらったから!」
「あの混戦の中、環輝と先生を逃がして証拠を集めさせておいておいてよかったぜ。」
「くそ・・・それならせめてこの女の命だけでも奪ってやる!」
嫌三は宇織の首に突き付けた刃物を突き刺そうとする。
「姉さん!」
「まずいな・・・これでも食らいやがれ!」
水萌はとっさにスタッフが放したと思われる鉄パイプを拾って嫌三に向かって投げつけた。鉄パイプは嫌三の腕に命中し宇織を放した。
「うおっ!何をする・・・」
「姉さん今のうちに逃げて!」
「ええ!」
宇織は大急ぎで嫌三の元を離れる。その時・・・
「騎ノ風警察です!嫌川嫌三、お前に逮捕状が出ている!」
「・・・くそっ、ここまでか。」
騎ノ風の警察は連絡を受ければすぐに駆けつけてくれる有能なのである。嫌三は逮捕され、彼に加担したTVスタッフたちも一人残らず連行されることになった。

事件が解決してから数日後。あの後の嫌三から聞いた調査によると、嫌三はつい最近コネで騎ノ風TVに入ったばかりの名前だけ管理職であったことが判明。また、冒頭で和琴を襲った覆面の男は嫌三であり、一緒にいた男たちは嫌三を心から慕っていた職員であることも判明。
しかし嫌川家はそれなりに地位のある家だったので色々な場所に顔が効くのは事実であり、一個人でしかなかったTVスタッフたちも従わざるを得なかったようである。スタッフたちは心から嫌三にしたがっていたもの以外は厳重注意でTV局での仕事に復帰したという。宇織も大きな怪我はなく、数日間の入院で大学にもレポーター業にも復帰することができた。
和琴は地下書庫でTVで奪ってきたデータについて環輝とエレナに聞いていた。
「ねえ花蜜。あのTV局で奪ったデータだけどさ、あれから何かわかった?」
「うーん・・・データから嫌川の兄貴が市役所前の電光掲示板をいじくってデマ情報を流す計画については分かったんだけどそれ以外は特に何も入ってなかったし・・」
「私解析したけどそれ以外の怪しい部分は見つからなかった・・・」
「あっちもその辺の管理は厳重にしてたってわけだし。嫌川家がまた何かを仕掛けてくる可能性が十分考えられるってことっしょ。嫌三は名前からして三男だろうし、ミシルが6番目って言ってたから最低でも兄貴があと4人はいることも考えられるじゃん。そいつらがまた何かしてくるかもね。」
「花蜜、鷲岳。今回は色々ありがとうね。この件に関してはここまでにしておきましょ。深追いしすぎるのもは良くないもの。」
嫌三が起こした一連の事件はこれで収束した。

騎ノ風市役所のとある部屋でニヤつく中年の男性と若い男性がいた。彼らはミシルらの父親である嫌川嫌之真とその秘書である。
「・・・嫌三さんは逮捕されてしまいましたがあれでよかったんですかご主人?」
「まあいい。息子は他にもいるしな。」
「それにしても騎ノ風TVにいる嫌三さんにご主人がこちらの電子掲示板にアクセスできるように仕組んで、奴らの個人情報を流すのはなかなかいい作戦だと思ったんですがね。大王市長にも今回はご主人が手を貸していたことばれませんでしたし。」
「本当に取り戻したいものがあるのなら、誰かを犠牲にしてでもやりとげんとな。嫌三を特別待遇で騎ノ風TVに忍び込ませたのもそのためさ。」
「どうしてそこまで・・・」
「私の大切な娘・・・ミシルは深い傷を負った。昔は自分で考えた捏造ニュースを私によく聞かせてくれたのに今は通学こそしてはいるが、それ以外ではすっかり引きこもりになってしまった・・・だったらどんな手段を使ってでも復讐するまでよ。ミシルを陥れた水晶学園の小娘ども・・・彼女ら全員に精神的ダメージを負わせれば娘は元気になって再び外に出てくることだろう。次はどんな作戦で追いつめてやろうか・・・」
「(それは逆恨みだと思うけどなぁ・・・それに嫌三さん逮捕されたから今回の作戦は失敗したようなもんだし・・・)」
嫌之真は秘書の考えは知る由もなく次の作戦を考えてニヤついた表情を浮かべるのだった。

立屋敷家の五つ子たち

ある日の事。咲彩と水萌は苺瑠から呼び出しを受けて立屋敷家にやってきた。立屋敷家は和風の門がある豪邸で巨大な和風の門が入り口になっている立派な造りをしている。
「相変わらず大きいねいっちゃんの家。」
「ああ、未だに苺瑠がこんなでかい屋敷に住んでいるのって信じられないな。案外苗字の由来も高くて大きい屋敷に住む一族だからだったりしてな。」
「それはどうなのかなぁ・・・いっちゃんは門は開いているって言ってたし中に入ろうか。」
咲彩たちは門を押して開け中に入った。庭は日本庭園のようになっており池には錦鯉が泳ぎ、手入れされた松が植わっていたり庭石が置いてあった。
「いつ来ても立派なお庭だよね。」
「茶道の家元だしこれぐらい当然なんじゃないか?」
咲彩たちはそんな話をしながら歩いて玄関までたどり着く。玄関のインターホンを押すと苺瑠が出てきた。
「おお、2人とも来てもらってすまなかったな。我の部屋に案内するから付いてきてくれ。」
苺瑠は2人を部屋に案内する。苺瑠の部屋は和風ながらもベッドが置かれている半分和風で半分洋風と言った感じだった。
「いっちゃん、今日はどんな用事なのかな?」
「ああ、父が無限学園で担当している生徒と一緒に外国に出張に行ってな・・・それで土産を買ってきたから我がいつもお世話になっているという意味で咲彩君と水萌君にも渡すよう言われたのだ。この青いのが咲彩君で白いのが水萌君のだったかな・・・」
苺瑠は青色の箱を咲彩に白色の箱を水萌に渡した。
「ありがとういっちゃん。」
「結構大きいんだな。」
「父は飾り物とか記念品しか買ってこない人だからな・・・たぶん、置物とかだと思うのだ。これだけで返すのも悪いし何か飲み物でも・・・」
「いっちゃん手伝う・・・」
「ああ、気にするな。客人なんだからゆっくりしていくのだ。」
苺瑠は立ち上がると台所へ飲み物を取りに行こうとする。部屋の外から髪色こそ黄色いが、苺瑠にそっくりな女の子が立っていた。
「・・・新菜!どうしたのだ。」
「へーえ・・・あの子たちがいっちゃんのお友達かぁ・・・初めて見た。」
すると後ろから青い髪の女の子と緑色の髪の女の子が顔を出した。
「苺瑠ちゃんのお友達!みたい!」
「ちょっと、みんなあまりかまったら苺瑠ちゃんが困るでしょ?」
「いっちゃんがいっぱい・・・」
「髪色と髪型違うんだから見分けられるだろ。」
「出てきちゃったんならしょうがないな・・・我が5つ子ってことは前に話したことあったな。我の姉たちだ。黄色のお団子頭が新菜、青色のポニーテールが水愛、緑色のお下げでカチューシャをしているのが志乃なのだ。一応両親が見分けやすいようピンク・青・緑・黄色・紫の5色でイメージカラーも分けているのだ。」
「だからいっちゃんってピンクのものを持っていることが多いんだね。」
「では私から。次女の立屋敷志乃です。言語の研究者を目指してます。」
「三女の立屋敷水愛です!イラストレーター志望だよよろしく!」
「四女の立屋敷新菜・・・一応ハンドメイドのアクセサリー作ってる・・・」
「苺瑠さんの友人の神宿咲彩です。」
「同じく織田倉水萌だ。そういえば苺瑠の家には昔から行っているけど、なんでこれまで合わなかったんだろうなアタシら?」
「ああ、それは私たち結構バラバラに行動することも多くて。」
「性格の不一致ってやつだね!」
「行ってる幼稚園も小学校もみんな別だったから、育った環境も全然違う・・・」
「そういうことなのだ。今でも姉たちは普段水晶学園の姉妹校である無限学園の寮にいるから家にいないのだが・・・休日は帰ってくるのだ。」
「それよりも5つ子なのになんで4人なんだ?」
「あと1人は性格にちょっと問題あるから別居中・・・」
「なんで別居しているの?」
「我らの生まれ順見て気づかないか?」
「そういえばいっちゃんって末っ子なのに苺瑠って長女みたいな名前だよね。」
「その通りだ咲彩君。前に名前の由来で説明した通り、我が家の大人たちにとっての多胎児の生まれ順がつい最近まで昔基準でな・・・出生直後は一番最後に生まれた我が長女扱いされていたのだ。」
「父さんたちがすぐに気づいたのはいいんだけど、名前までは直せなくてそれを理由に苺瑠ちゃんに嫌がらせを・・・嫉妬って怖いね。」
「水愛ちゃんは真ん中で影響受けなかったんだからそう言えるのよ・・・私も時々自分が四女なんじゃないかって錯覚することもあるのよ。」
「アタシも新菜だから次女かなーって思うことある・・・」
「そんなわけで皆結構複雑な思いをしているのだ。父様たちが間違えなければこんないざこざ起らなかったというのに・・・」
「多胎児ってのも大変なんだな。そういえばもう1人の名前ってなんなんだ?」
「逸夜(いつや)です・・・」
「読みづれえな・・・それになんだか通夜連想するな。」
「ちょっと!何勝手に人の名前を話のタネにしているわけ!?」
水萌がそう言った時、部屋の入り口から大声が。そこには紫髪のセミロングで片目を隠した女の子が立っていた。
「逸夜ちゃん帰ってたんだ。」
「桶川の本家も重苦しいからね・・・たまには帰ってきたっていいでしょ!」
「というわけで長女の逸夜なのだ。」
「人の許可得ずに勝手に紹介してんじゃないわよ!」
「逸夜ちゃん、いちいち怒らないの。今はお客さんきてるんだから。」
「お客?ふうん・・・」
逸夜は部屋に入り、座っている咲彩と水萌の顔を交互に見つめる。
「えと・・・」
「あまり見るなよ・・・」
「出がらしの友達にしては上質な子達ね。」
「な・・・出がらしとは失礼なのだ!」
「出がらしでしょ。才能とかいうふざけた言葉に逃げてるんだから!」
「逸夜ちゃん!!!今お客様来ているんだからそういうはしたないことは止めなさい!!!」
「はーあ分かったわよ。志乃ってほんと優等生よね・・・そう言う堅物な所が嫌いなのよ。」
逸夜はそう言うと苺瑠の部屋から離れて行った。
「神宿さん織田倉さんごめんなさいね。あの子ちょっと性格悪いから強く言わないといけなくて・・・」
「だけど、見る限りでは心の底から悪い奴には見えなかったけどな。」
「逸夜ちゃんうちの茶道を継ぐことになってるんだ。だから普段は結構息苦しい生活を送っているらしいよ。」
「だからいつもイライラしているのかも・・・」
「逸夜はよく、私が茶道を継ぐことに誇りを持っていると主張していたが・・・本当はそうじゃないのかもな。」
「・・・ねえいっちゃんたち。私が逸夜ちゃんと話してみてもいいかな。」
「何を言っているのだ咲彩君、あいつは危険で・・・」
「今は放っておいた方がいいかと・・・」
「だけど・・・話してみないとわからないこともあるよ。」
咲彩はそういうと逸夜を追った。
「おい、咲彩・・・全く、しょうがないな。余計なことになっちまって悪いな苺瑠。」
「いや、別にいいのだ。あれが咲彩君のいいところでもあるからな。」

そのころ逸夜は縁側に座っていた。
「ったく・・・やりたくないことばかりで悪態をついてないとやってられないっての。」
「逸夜ちゃん、ちょっといいかな。」
「あんた・・・出がらしの友達ね。何か用?」
「ちょっとお話したいんだけどいい?」
「・・・身内もいないし勝手にすれば。」
咲彩は逸夜の隣に座った。
「それで話って何よ。」
「逸夜ちゃんって、なんでいつも怒ってるのかなって思って。」
「いろいろあんのよ。名家の長女って大変だから。生まれたときは五女として扱われてたのに出生順間違えたってだけで名前はそのままで長女にされたんだからやってらんないわよ。名前だって出生順に戻してくれたってよかったんじゃないのって今でも思うことがあるのよ・・・」
「そんなに自分の名前が嫌いなの?」
「逸夜よ?通夜みたいな名前って言われたこともあるし・・・苺瑠の方が可愛いじゃないの。」
「だけど、いっちゃんも苺の漢字の成り立ちが乳首由来って言われたことがあってそれが嫌だって聞いたことあるよ。」
「あいつそんなこと考えてたんだ知らなかった。ウチの父親国語教師のはずなんだけどね・・・」
「それとさ、茶道って本当に逸夜ちゃんのやりたいことなのかな?私から見るとなんだかそうは見えなかったから・・・」
「何でもわかるのねあんた・・・嫌いじゃないけど熱意をもって茶道をしたいって思ったことないのよ私。妹たちは後を継ぐことなんて考えずに自分勝手に好きなことばかりやってるし。志乃は言葉の研究、水愛はイラスト、新菜はアクセサリー作り・・・出がらしも祖父母から落語教わったりネット配信・・・Vtuberだっけ。とかやってるし。輝いているわよねあいつら。」
「逸夜ちゃんはやりたいことってないの?」
「私かぁ・・・できることなら旅人・・・ソロキャンパーになりたいわね。自然の中で自分で料理して焚火を焚いてゆったりとすごす・・・立屋敷じゃ味わえないことをしたいの。母様に隠れて自然での食事作りの方法を学んだりもしているし・・・自転車で騎ノ風国立公園にあるオートキャンプ場の下見も昔から行ってるのよ。まだ実際に泊まったことはないんだけどね。」
「逸夜ちゃん、その気持ちをお母さんに伝えてみたらどうかな?」
「母様に?馬鹿じゃないの!?許してもらえるはずないわよ・・・」
「逸夜ちゃんの気持ちを分かってくれるかもしれないよ。」
「気持ちを伝えるか・・・色々聞いてくれてありがと。あんたの名前覚えておくわ。」
咲彩と逸夜のそんなやり取りを水萌と苺瑠、ほかの姉妹たちは柱の陰から見守っていた。
「逸夜ちゃんがあんなことを考えていたなんて知らなかった・・・」
「私さっき逸夜ちゃんの気持ちも考えずに言いすぎちゃったかも・・・」
「逸夜ちゃんに必要だったのはちゃんと自分の気持ちを聞いてくれる人だったのかもね!」
「咲彩君が逸夜の気持ちに気づいてくれてよかったのだ・・・我に対する悪態はやりたくないことのストレスから来ていたんだな。」
「抑圧されて育つと視野が狭まるからな・・・逸夜にとってはこれがいい機会になったんじゃねえかな?」
「そうだといいのだがな・・・」

咲彩たちが高屋舗家を訪れてから数日後のこと。この日は4組に編入生が来ることになっていた。咲彩、苺瑠、水萌の3人は食堂でその話題に。
「なあ、知ってるか?4組に編入生が来たんだとさ。」
「どんな人が来たんだろうね?」
「まあ、問題起こさないようないいんじゃないか・・・」
「神宿、織田倉、出がらし。隣いいかしら?」
そこにいたのは濃い紫髪のセミロングの女子・・・逸夜だった。
「逸夜ちゃん!」
「4組に編入したのってお前か?」
「そうよ!今日から同じ学園に通う者同士よろしく頼むわね。」
「逸夜!お前、レベルの高い県立高にいたんじゃ・・・それと出がらしはやめるのだ。」
「ふん、普通科のエリート校なんか飽きたのよ!・・・本当は神宿の言った通り、母様に私の思いを打ち明けてみたの。そうしたら母様ってば逸夜が今までやりたいことなんて言ったことなかったから嬉しい。私が長生きして少しでも逸夜の後継ぎのタイミングを遅らせるから茶道の修業もしつつ好きなことをやってもいいって言われたのよ。というわけでやりたいことを極めるならって意味で水晶学園に編入させてもらったの。ここで茶道と私のやりたいこと・・・旅やキャンプについて深く学ぶわ!」
「よかったね。逸夜ちゃんの思いが届いたんだよ。」
「通学はどうするのだ?」
「基本的には本家から通わせてもらうけど、週末はこっちに泊まらせてもらうわ。それにさ・・・二兎を追う者は一兎をも得ずって言葉はあるけど、それでも一つのことに限定して極める必要もないんじゃないかって思ったのよ。私もエネルギーが持続するかわからないけど、茶道と旅人・・・両方の目標を追いかけることにするわ!お茶が入れられる旅人っで素敵じゃないかしら。」
「お茶を入れられる旅人かぁ・・・素敵だと思うよ逸夜ちゃん。」
「はは・・・また騒がしくなりそうなのだ。」
「あんたのことを認めるつもりはないけどね?」
「一言余計だぞ・・・」
こうして水晶学園には自分の思いに正直になれた新しい生徒が加わったのだった・・・

帰ってきた元教育実習生

某所にある空港に一機のジェット機が着陸した。そのジェット機から一人の女性が降りてきた。水晶学園の教育実習を終え合格した後、世界を飛び回り様々なことを学んで帰ってきた串町先生だ。
串「半年間の旅、充実してたな・・・みんな元気にしているかな?」
串町先生は空港で手荷物を受け取ると、空港の最寄り駅から電車に乗り換えて目的地へ向かう。彼女の持っている切符の行先には騎ノ風駅と書かれていた。

次の日。水晶学園の愛麗たちのクラスでは新しい教師が赴任してくるという話題で盛り上がっていた。
「あんたたち聞いた?なんでもこのクラスの副担任として新しい先生が来るんだって。」
「元々の副担任である赤羽先生はどうなるのよ?」
「赤羽先生は2・4・6組の副担になってその先生が1・3・5組の副担になるらしいわよ。」
「そうなんですか・・・ということは私たちもかかわることになるのですねその新しい副担任の先生と。」
「とはいえ、この学校はカリキュラムが特殊ですから、副担任としてよりもその先生の選択授業で関わることの方が多くなりそうな気がしますわ。」
「聞いた話じゃ女性の若い先生なんだって。」
「案外串ちゃん先生だったりして。」
「海外に旅に出たんやし、そんなにすぐ帰ってこうへんやないかな・・・」
そんな感じで新しい教師の話題で盛り上がっているところに鮫川先生が教室に入ってきた。
「お前らー席に就けー。朝の連絡の時間だ。」
鮫川先生は教壇に立つといつも通りに朝の連絡をし始める。
「今日の選択授業のうち・・・と・・・は休講で振替はまた後日に伝えることとする。それと今日から赴任した新しい先生を紹介する。入ってきてください。」
鮫川先生の言葉で一人の若い女性教師が教室に入ってきた。串町先生その人だった。
「皆さんおはようございます。本日からこのクラスの副担任として赴任することになりました串町美風です。」
「串町先生本当に帰ってきたんだ・・・」
「串ちゃん先生お帰りだしー!」
「せかいをまわってきたからなのか・・・一皮むけたように見える。」
「いやー・・・急に帰ってきて驚いたよね。前もって言えなくてごめん。」
「それはいいけどさ・・・選択授業なに教えんだ?世界を回ってきたんだから相当なものだよな?」
「ちょ、みなちゃんそんな言い方失礼だよ・・・」
「私の選択授業?世界を旅する過程で決めてきたわ。その名も・・・世界文化史よ!」
「世界文化史・・・主な内容はどのようなものですか?」
「私は世界を渡り歩いていろいろな国の文化に触れたわ。それを生かして世界の文化についてみんなに教えることを私の選択授業にすることにしたの。毎週金曜日の2限目に入れたから興味ある人は取ってね。」
「その時間は空いてるな・・・我はとってみるのだ。」
「ありがとう立屋敷さん。」
「楽しい時間に水を差すようで悪いが・・・串町先生が返ってきて嬉しいのはわかる。だが、1限目の授業があるやつは速やかに移動しないと授業始まるぞ?」
「ほんとだやば!遅れるじゃん!」
「みなちゃん今日1限私と一緒だっけ!?」
「たぶん違うぞ。アタシ外国語の授業だし、咲彩は外国語系取ってねえだろ?」
「南星、今日の授業で鉄定規必要なんだけど貸してくれない?」
「ったくしょうがないわね・・・昼休みに返しなさいよ?」
「あはは・・・みんな気を付けて授業に行ってね。」
串町先生の帰還。それは愛麗たちが時間を忘れるほどうれしいことだったようだ。

後日。串町先生は学年主任である蒲郡先生から呼び出しを受けていた
「私に依頼ですか?」
「はい、実は1組の子たちの生徒調査をお願いしたいのです。」
「生徒調査ってどのようなことをするのですか?」
「生徒を個室に呼び出して、進路などの聞き取りを行う面談をしてもらうんです。鮫川先生が明日から研究出張に行ってしまうの代わりにできる人を探していまして・・・串町先生は新任ですし負担が大きければ別の方にお願いしますが・・・」
「(この依頼を引き受ければ、教師として皆にもっと信頼されるかも・・・)いえ、問題ありません!新任の私でもよければぜひ引き受けさせてください!」
「ありがとうございます。串町先生に担当していただきたいのは南星さんと立屋敷さんの2人です。明日はよろしくお願いします!」
「任せてください!」
こうして、串町先生の水晶学園講師として授業以外での最初の大きな仕事が始まったのだった。

次の日。串町先生は生徒相談室で任されることになった生徒たちを待っていた。最初にやってきたのは苺瑠だった。
「ここでいいのかな・・・先生、呼び出しがあったから来たのだ。」
「高屋舗さんよく来てくれたね。事前に聞いてると思うんだけど、生徒調査としていくつか聞きたいんだけどいいかな?」
「こういうことは担任がやるのではないのか?」
「実は鮫川先生が研究のための出張でいないのよ・・・だから副担任の私が立屋敷さんの話を聞いて鮫川先生に伝えるわ。」
「そうなのか・・・うむ、それだったらよろしく頼むのだ。」
「(立屋敷さんって喋り方が古風だから少し偉そうに聞こえちゃうけど悪気はないんだよね・・・)」
「どうしたのだ?」
「ううん大丈夫だよ。それじゃあ質問に答えてくれるかな。立屋敷さんって夢とか目標ってある?」
「そうだな・・・我の目標は落語家、ネット配信者、文化研究者で迷っているのだ・・・」
「へえ!文化研究者があるってことは文化に興味持っているってことだよね。だからこの前私の授業を取ってくれるって言ったのかな。」
「そうなのだ。我は歴史に興味があってな、その延長で文化についてもいろいろと調べたりしているのだ。」
「歴史好きなんだ・・・嬉しいな。次に、ネット配信者って最近話題だけど高屋舗さんはどんなことをやってるの?」
「そこか、実はネットアイドルみたいなことやってるのだ。前にレナ君と環輝君にバーチャルでネットアイドルしたいって言ったらシステムを構築してくれたのだ。今は主にそれで架空のキャラいち☆ひめとして配信をやっているよ。結構高かったけどな・・・」
「ということはVtuberみたいな感じなのかな。」
「そうなのだ。時折暴言のようなコメントもあるけれど支持してくれる人たちからは楽しいとか、素敵とかよい言葉をたくさんもらっている。だから元々の目標である落語家とか文化研究者と迷ってしまって・・・情けないものなのだ。」
「だけど、立屋敷さんはすごいなって思うよ。」
「何がだ?」
「まだ高校1年生なのに3つも目標を持ってるから。私が高校生だったころはそんな気持ち持ってなかったし。」
「それはたぶん我がどんなことを言っても馬鹿にしないこの学園の環境と同じように目標を持って生活する仲間がいるからだな。」
「立屋敷さんがそう思っているってところはやっぱりいい所なんだね水晶学園は。あとは・・・学校や家庭で困っていることない?」
「ちょっと問題のある奴がいるんだけど・・・皆優しいから問題ないよ。」
「問題のある奴って誰?」
「我は五つ子の末っ子なんだが・・・」
「立屋敷さん五つ子なんだ!他のお姉さんたちも可愛いんだろうなぁ・・・」
「話を遮らないでほしいのだ。そのうちの長女の性格が悪くて、我に色々な嫌がらせをしてくるのだ。理由も
「どんな理由が・・・」
「多胎児っていうのは昔は早く取り出されたほうが妹と言う決め方をしていたじゃないか。我の一族はその認識がまだ昔基準だったせいで、一番最後に取り出された我が長女として扱われ名前も苺瑠になったのだ。届出を出した後に親たちが間違いに気付いて出生順は元に戻ったのだが、名前を戻すわけにもいかずそのままに・・・その結果長女の名前をもらった我は五女の名前である長女に嫌がらせばかりされている、そんな感じなのだ。」
「多胎児だからってみんなが仲良いわけじゃないんだ・・・わかった。鮫川先生に伝えておくね。」
「それよりも、我から聞きたいことがあるのだがいいか?」
「何かな?」
「先生は何故我の言った目標を否定しなかったのだ?今まで我が誰かに目標を話した時にそれは止めなさいと言われたこともあったのだ。」
「確かに立屋敷さんの言った目標はどれも安定しないよね。私はそれでも大好きな事をやり続ける立屋敷さんを応援したいって思うからかな。頑なに否定してその子の芽をつぶしたくないし、出る杭は打たれるなんてほんとおかしいことだと思ってるから。」
「うむそうなのだな。先生はきっと良い教師になれると思うよ。」
「それじゃ、立屋敷さんの面談はこれぐらいにしておくね。希望は鮫川先生にしっかり伝えるから。」
「先生ありがとう。話を聞いてくれて助かったのだ。」
「うん、私はいつでも立屋敷さんの味方だからね。」
「うむ。それでは失礼するのだ。」
苺瑠が椅子から立ち上がり、相談室を出ようとした時、椅子に苺瑠の忘れ物と思われるスマホが落ちていた。串町先生はそれを渡そうとするが・・・
「あ、立屋敷さん忘れ物・・・あっ!」
足を滑らせて苺瑠にのしかかる形で転んでしまった。
「急にどうした・・・わわっ、先生何しているのだぁ!!!」
串町先生は顔面を苺瑠のスパッツのお尻部分に食い込ませていた。
「ごめん立屋敷さんこれは悪気があったわけじゃなくて・・・これ忘れてたから渡そうと思ったらころんじゃって・・・」
「ああ、落としていたのか。うん、まあ間違うことは誰にだってあるのだ。だけど・・・次やったらちょっと怒らなければならないかもしれないのだ。」
苺瑠はやや機嫌を悪くして相談室から出て行った。
「あの能力が出ちゃったか、立屋敷さんに後で謝らないと・・・次は南星さんか。この子結構言い回しきついんだよね。」
苺瑠が出て行ってしばらくすると、相談室の扉が開き愛麗が入ってきた。
「串町先生呼ばれたので来ましたけど・・・苺瑠ちょっと機嫌悪そうだったけど何かあったんですか?」
「いや、なんでもないよ。南星さんお疲れ様。それじゃ、生徒調査を始めるからそこの椅子に座ってね。」
「分かりました。」
愛麗は特に疑問を持つこともなく、椅子に座った。
「早速、聞いていきたいんだけど南星さんは夢とか目標とかある?」
「あたしの目標か・・・ジオラマ作家かな?」
「ジオラマってあの町とかを再現した模型の事?」
「あたしそれ小さいころから作ってて大会とかも出ているんです。これが実際に大会に出した時の写真です。」
愛麗は実際に作ったジオラマの写真を串町先生に見せた。
「これ1人で作ったの?すごいじゃない!」
「あたしの祖父がおもちゃ屋の経営やってるんです・・・その影響で興味持って。」
「他の作品もいつか見せてもらいたいな。あれ?だけど南星さんの家の家業ってバイク屋さんじゃなかったっけ?」
「あっちは南星家の本筋である祖母がやってるんです。バイクにもそれなりには対応できますけどあたしはジオラマの方が好きなんで。」
「・・・南星さんってご両親はいないの?」
「いるにはいるんですけど。聞きますか?」
「うん、話せる範囲でいいから聞かせてもらえるかな。」
「母は物事を深く考えない人なんです。あたしたちの事や未来のことを考えることもなくただ可愛い子供が欲しいっていう理由で私生児としてあたしたちを産んだんだそうです。そのせいであたしたちを育てられなくなって里親に出されて・・・あたしはそこで虐待まがいの育てられ方をされたんです。祖父母はすぐにあたしを引き取って、母をものすごく怒ったらしいんですけど・・・今はあたしたちに会わないっていう条件でバイク屋の方の騎ノ風市でない場所の支店で仕事しているらしいです。父の事は・・・ちょっと話せないです。」
「大変だったんだね・・・」
「いや、でも祖父母がいい人たちですし、凛世たちもいるから昔よりは楽しく暮らせてますよ。変なのに絡まれることも多いけど・・・」
「うん。南星さんを見ていると幸せそうだなって感じるよ。」
「それと、あたし女の子のキャラクターにも興味あって、Webサイトで小説書いたり軽い落書きをしてるんです。こんな感じで・・・」
愛麗はそういうと、スマホで自分で書いている絵と小説を串町先生に見せた。
「へぇ、上手だね!こういう文章の使い方いいと思うし、南星さんの絵のタッチ好きかも。」
「奈摘に比べればまだまだだし、ジオラマの方に熱中することが多いからあまり描かないんですけどね。こっちの方もジオラマ作りつつ出来ていったらいいなと考えてるんです。」
「私はどっちを選んだとしても南星さんの目標を応援したいな。」
「・・・そう言われたの初めてなので嬉しいですね。なかなか理解してくれない人も多いので。」
「一応世界を回って色々なものを見てきたんだから、それぐらい理解できるよ。南星さん、ジオラマや女の子キャラ好きなんでしょ?」
「そうですね・・・好きだからこそやっているんだと思います。」
「それなら自分の気持ちに正直になろうよ。南星さんを否定する人がいたら言ってね。私が味方するから!」
「ありがとうございます。あたしの好きな事に関する授業を取りつつこれからも続けていこうと思います・・・」
「うん、それでこそこの学校の生徒だよ。それと何か学校生活で困ったことはない?」
「特にありません。この学校は平和でいい所ですから。」
「それならよかった。今日の事は鮫川先生にしっかりと報告しておくから心配しないでね。」
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
愛麗は椅子から立ち上がり相談室を出ようとする。串町先生は愛麗の背中に糸くずがついているのを見つけた。
「(あ・・・南星さんの服に糸くずついている)南星さん、ちょっと待って・・・あわっ!」
「え?」
愛麗の服についている糸くずを取ろうとした串町先生は椅子から立つが滑ってしまい、呼ばれて振り返った愛麗の胸の谷間に顔をうずめる形になってしまう。
「・・・・・」
「(ああもうどうすれば、このまま南星さんのお洋服脱がせておっぱい揉んで気持ちよくさせて許して貰うとか・・・いや南星さんのニットもオーバーオールも脱がしにくそうだし、ってか私なんでこんなことしか思いつかないのよー!もういいや素直に説明しよう。)」
なお、串町先生がこのことを考えていた時間は約2秒である。
「あ、南星さんこれはわざとじゃなくてね・・・南星さんの服の糸くずを取ろうとしただけで・・・」
「先生何するんですか!!!変態!!!」
愛麗は胸を隠す姿勢を取り、怒鳴り声を挙げて部屋から出て行った。
「南星さんまで怒らせちゃった・・・もうやだこの能力・・・」

次の日。鮫川先生はまだ出張中なので串町先生が朝の連絡を伝えに来ていた。
「朝の連絡はこれで終わります。その前にみんなに聞いてほしいことがあるんだけどいいかな。特に南星さんと立屋敷さんに。」
「何よ。あたしの胸にダイブしておいてよく話しかけられるわね。」
「我はスパッツに顔を突っ込まれたのだぁ・・・」
「愛麗の胸に飛び込んだってどういうことか説明してください先生?」
「いっちゃんのスパッツに顔を突っ込んだって・・・」
「それって変態じゃない・・・」
「串ちゃん先生、教師だからって生徒襲ったりしたらだめじゃん。」
愛麗と苺瑠の言葉を聞いて騒ぎ経つ生徒たち。串町先生は騒ぎ立てる生徒たちに向かって自分の症状を訴えた。
「違うの・・・私、ラッキースケベ症候群っていう呪いがあるの!!!」
串町先生がそう叫んだ瞬間、教室が静まり返った。
「ボクも見たことあるけど、ラッキースケベって本来は漫画とかで男主人公が運よくお色気シーンに遭遇する奴だよね・・・」
「少年漫画のロマンですわね。わたくしは嫌いですけど。」
「漫画だけの話だろあれは・・・」
「症候群ってことは、意図的にそうなってしまうみたいな感じなのかなぁ?」
「陽瑚ちゃんそれをいうなら意図的や無くて無意識のうちやと思うで。」
「みんなまず話を聞いて。私が世界を旅している最中にとある村に立ち寄ったの。そこで寝ている間に怪しい呪いをかけられて・・・次の日からやたらと女性に対してそういう場面に遭遇するようになっちゃったの。」
「つまり、串町先生は呪いをかけられただけの被害者なのですわね。」
「だけど・・・そんな呪いがある場所に泊まる先生も悪いと思う・・・」
「神宿、占いやってるあんたならそういう呪いについて何かしらないわけ?」
「私だってラッキースケベの呪いなんて聞いたこともないよ・・・」
「(うう・・・まだ就任してまもないのに皆を困らせちゃってる・・・迷惑かけちゃうし辞めようかな・・・)」
串町先生が弱気にそう思ってしまった瞬間、愛麗が机をたたいて立ち上がり無言で睨みつけてくる。
「・・・」
「どうしたの南星さん・・・」
「串町先生、今辞めようかなって心の中で考えたでしょ?」
「・・・なんでわかるの?」
「この状況で不安そうな顔してればそれぐらいわかるわよ。」
「だって、このままだったら貴方たちに迷惑かけちゃうし・・・」
「それならあたしたちも協力してその呪いに対抗できる方法探すわよ!」
「愛麗、安請け合いは良くないですよ・・・」
「別に安請け合いじゃないわ。串町先生は目標や夢を語ったあたしのことを全然馬鹿にしなかった。若手でそれができるってこの学園の教師として優秀だと思うの。」
「我も、先生にはしっかりと向き合ってもらったのだ・・・それに比べれば我はなんて小さいことに固執していたのだろう・・・」
「わざとやったんじゃないっていうなら胸に飛び込むぐらい許すわよ・・・だから簡単に辞めるなんて言わないで!」
「先生心配しなくても大丈夫なのだ!我らも一緒に呪いを解く方法考えるのだ!」
「南星さん、立屋敷さん・・・」
「そうだね、」
「だな。元々アタシらにとって立派な教師になるために世界を旅したんだもんな。」
「そんな立派な人を見捨てるなんて考えられないもんねぇ。」
「呪いってウイルスを取り除けるワクチンプログラムが必ずどこかにあるはずだし!」
「私もその呪いを解くことができる霊術がないか探してみますね。」
「暇があったらラッキースケベの呪いについて書かれていることがないか家の蔵書を漁ってみるわよ。」
皆それぞれが解決方法を提示する中、愛麗は座席を立つと教団にいる串町先生に近づき、こう言った。
「・・・先生があたしたちの味方でいてくれるならあたしたちも先生の味方でいるから。直接力になれなくてもこんな風にさ!」
「ありがとう南星さん、他の子たちも・・・教師になったばかりだけど、こんなに素晴らしい生徒たちに出会えて良かったよ・・・」
串町先生はも受け入れてくれた愛麗たちの優しさを噛みしめたのだった・・・

水萌、偽装デートを頼まれる

「水萌ちゃん、お願い!」
「急にそんなこと言われてもなぁ。」
アタシ織田倉水萌は今現在、幼馴染兼友人の西園寺陽湖にあることを依頼されていた。なんとそれは偽装デートの御依頼だった。
どうも陽湖はこの前ある男を助けた結果、そいつにストーカーのように付き纏われてしまっているらしい。自分で撒いた種だと言ってしまえばそれまでだが、陽湖は優しくてお人好しな面も強い。だからこんなことになるなんて思ってなかっただろう。
「恋人のふりしてくれるだけでいいの!」
「その前にさ、なんでアタシなんだよ。咲彩とか柚歌に頼んだほうがいいだろお前の場合。」
「水萌ちゃんなら腕力強そうだし、いざって時守ってくれそうだから・・・もし引き受けてくれたら、美味しいお店の食べ放題ご馳走するから!」
「しゃーねーな、今回だけだからな。」
「ありがとう!水萌ちゃんがドキドキしちゃうほどの飛びっきりオシャレしてくるからね!」
「お、おう・・・」
陽湖は結構服のセンスがいいのは知ってる。だが、アタシは陽湖にあまり気がないからドキドキさせるのは無理だと思うけどな。
そんなわけで安請け合いをしてしまったのだが、まさかこれがきっかけで大変な目に遭うだなんてこの時はまだ思いもしなかったな。

偽装デート当日。アタシは駅の前で陽湖を待っていた。
「遅いな・・・アイツがマイペースだってことすっかり忘れてたぜ。」
そんな風にぼやいていると向こうから陽湖がやってきた。だが、その姿を見たアタシは目を奪われてしまった。
「水萌ちゃーん!」
「あれ・・・陽湖なのか・・・?」
陽湖は胸部分が大きく開いた上服に鮮やかなオレンジのロングスカートを来ている。陽湖は普段はゆったりしたワンピースとかジャンパースカートなので目を奪われる。いつもお団子にしたりバレッタでアップスタイルにまとめている髪も下ろしていてお嬢様がかぶるような帽子を着用している。正直・・・可愛い。
「お前・・・似合うな。」
「言ったでしょ?名いっぱいのオシャレしてくるって。」
「(やっぱり咲彩の従姉妹だけあって似てるな・・・)」
「そんなに可愛いのにアタシはいつもの格好で悪いな。」
「そんなのいいよ。わたしが頼んだことだもん。それじゃ行こうか。」
最初は恋人として違和感ない振る舞いを身につけるためデートの練習だ。陽瑚に付きまとっているストーカー男とは午後に会う約束を取り付けたらしい。プランは陽瑚に考えてきてもらった。今思えば恥ずかしいことばかりやってたな・・・

2本のストローで同じドリンクを飲んだり・・・
「で・・・コレ本当一緒に飲まなきゃダメか?咲彩ともやったことすらないんだが。」
「恋人はね、2本のストローで同じドリンクを飲むんだよぉ。」
「分かったよ・・・(ああもう陽瑚が可愛すぎて緊張で口が震える・・・)」

カラオケボックスで身体を密着させたり・・・
「おい・・・ここまでしなくてもいいだろ?」
「恋人だもんこれぐらいは・・・(むにゅ)さ、デュエットしようよぉ!」
「(緊張で歌えねえよ・・・)」

愛称で呼び合ったり・・・
「恋人同士なら愛称で呼び合った方がいいよね。みなちゃん。」
「アタシも相性で呼ばなきゃダメか・・・?」
「ダメだよ?」
「分かったよ。あんまりそう言うの得意じゃないけど・・・ハル。でいいか?」
「うん。ありがとう。」

・・・他にも書けないぐらい恥ずかしいことたくさんやった。だけどこれも陽瑚を助けてやるためならやってやるさ。それに、今日の陽瑚は可愛いからアタシも興奮しっぱなしでまんざらでもなかったのも事実だ。
そして午後、アタシたちは約束の場所である駅前に向かった。そこには怪しい感じの男がおり、アタシらを見つけると自分から近寄ってきて声をかけてきた。
「やあやあ西園寺さん。決意は固まったかな?そんなに綺麗な服を着てるってことは・・・俺を受けて入れてくれる気になったんだね?」
おそらくこいつが陽瑚が助けたストーカーの奴だろう。
「これはあなたのためじゃないもん。それにわたしの恋人はこの人・・・みなちゃんだよ。」
陽湖はそういうとアタシを胸元に引き寄せた。陽湖の大きい胸がアタシの頭に当たる。
「はっ、何言ってるんだか。女同士で恋愛なんておかしくて笑いがとまらないね!そんな嘘バレバレの芝居なんかしていないでさっさと俺のものになりな!」
「そんなこと・・・ないもん・・・」
陽瑚は男の威勢の良さにやや劣勢になりつつあるのでアタシも言葉で手助けする。
「お前さ、ハルになんで付き纏ってるのかしらねえけどよ、嫌がっているのわかんねーのか?」
「何を言っているんだい・・・西園寺さんは照れ隠ししているだけだろ?」
「本気で嫌がっている相手に向かって照れ隠しとかいう解釈をするお前もどうかと思うけどな。」
「ちっ・・・この手は使いたくなかったが、食らえ!」
男はそう言うと、懐から何かを取りだして蓋をあけるとそれをアタシに向かって投げつけてきた。
「これは何だ・・・咳が止まらない・・・」
「みなちゃん大丈夫!?」
「それは蟹エキスだ。一応西園寺さんの周囲の奴の情報も調べておいてよかったよ。お前、織田倉水萌は・・・甲殻アレルギーだったよな?」
「なんでそれを・・・ゲホッ・・・」
「調べたって言っただろ。俺の情報網を舐めたらだめだぜ。西園寺さん、織田倉を助けてほしければ俺のものになりな!」
「・・・みなちゃん、ありがとう。」
「行くな!」
「だけど、このままじゃみなちゃんが死んじゃうよ・・・」
「まだこれぐらいなら持ちこたえられるから・・・」
とはいえ、正直限界も近い。体調が良ければあいつぐらい殴り飛ばしてやるんだが・・・何か、何か陽瑚を救える方法は・・・
「さあ、答えを言え!」
「わたしは・・・貴方の・・・」
陽瑚がそこまで言いかけた時、男とアタシらの間に一台のバイクが割って入った。運転手は・・・アタシたちと同じぐらいか少し上だろう。ヘルメットをかぶっているので顔はよく分からない。バイクを路肩に止めると、陽瑚に一本の注射器を渡した。
「それ撃って安静にさせてれば症状は収まるよ。」
「う、うん。ありがとう・・・みなちゃん、元気になって・・・痛いけど我慢してね。」
陽瑚はアタシの腕に注射器を撃つ。その一方でバイクの運転手は男の方に詰め寄る。
「・・・な、なんだよお前?」
「さっきから見ていれば人が嫌がることをして挙句の果てには相手のアレルギーを逆手にとって攻撃するなんて最低だね。」
「うるせえ!西園寺さんは俺のものだ!それは未来永劫変わらないんだよ!」
「自分で勝手にそう思ってるだけでしょ。」
「そう、相手に酷いことしておいて反省もできないんだ。なら、私の大切な人たちを傷つけたこと絶対許さないから。」
運転手は男に飛びかかるとそのまま胴体を踏みつけた。
「痛てええええ!!!!!やめろおおおお!!!!!」
「嫌だ、止めて。この子たちも貴方に何度も言ったよね?だけど止めなかったのは誰?」
「分かった、俺が悪かった!西園寺さんには二度と付きまといません!許してください!」
「・・・いいよ。今回だけは信じてあげる。」
「ひええええ!!!覚えてろよー!」
運転手は男の体から足を退けた。その瞬間男は一目散に逃げ去って行く。
「・・・もう心配ないか。大丈夫だったはるちゃん?」
運転手は陽瑚に近寄ると、ヘルメットを外した。運転手は咲彩だったのだ。
「さあちゃん・・・怖かったよぉー!!!!」
「よしよし。」
「はぁ・・・落ち着いてきたな、咲彩、助かったぜ。」
「みなちゃんも厄介ごとに巻き込んじゃってごめん。」
「いえ、ですがなんでアタシのアレルギーの薬の事知ってたんですか。」
「みなちゃん、万が一に備えて抗アレルギー剤注射器一本わたしに預けてあったでしょ。それを渡しただけだよ。」
「そうだったな。すっかり忘れていたぜ。」
「さあちゃんありがとう・・・みなちゃんが死ななくてよかったよぉ。」
「それより、2人とも疲れたでしょ。そこの店でゆっくりしよ?話も聞くからさ。」
咲彩はアタシと陽瑚を連れてすぐ近くの喫茶店に入る。そして店の中へ入ったアタシは咲彩に聞きたかったことを聞いてみることにした。
「なぁ、なんで陽瑚がこういうことに巻き込まれているって知ってたんだ?」
「数日前私もはるちゃんから変な人の付き纏われているっていう相談を受けていたから。デート相手には腕っ節の強いみなちゃんの方がいいって言ったんだけど、まさかあんなことになるなんて・・・そんなわけで念のため尾行させてもらってたんだ。」
「尾行してたのかよ・・・どれぐらいから見てたんだ?」
「最初からだよ。なかなかお似合いのカップルだったと思うよ。」
「そんなに前から・・・」
「見てたんだ・・・」
「遠目から見た感想だけど2人とも結構お似合いだったよ。付き合っちゃうのもありかもね!」
「アタシにはお前がいるだろ咲彩・・・」
「わたしにも柚歌ちゃんいるし・・・」
「あ、そうだったね。ちょっと軽率な発言だったねごめん。みなちゃん・・・嫌いにならないでね?」
「それぐらいで嫌いになったりしねえよ。」
「なんか今日は色々とごめんね水萌ちゃん。」
「いいよ。気にすんなって。アタシら親友だろ!?」
アタシはそう言って陽瑚の背中をちょっと強めに叩いたのだった。親友という言葉に喜んだのかどうかはわからないが、陽湖は嬉しそうに笑っていた。

愛麗がスカートを履かないわけ

「ねえ闇雲に花蜜、あんたたちなら幼馴染の南星の事なんでも知ってるわよね?」
「はい。愛麗の事なら大体は把握してますよ。」
「小学校入る前の小っちゃいころからずっと一緒だったし。」
「なら聞いてもいい?あいつってさ・・・なんでスカート嫌がってるのか知ってる?前に南星と服屋に行った時にこんな受け答えをされたんだけど・・・」

~和琴の回想~
数日前、駅ビルの服屋で買い物していたときの事。
「うーん、これとか今の季節にいいわね。」
「和琴って服とか詳しいわよね。」
「腐っても元モデルだから。モデル廃業した今じゃ雷久保や西園寺に負けるけどね。南星にはこんなのも似合いそうね。」
和琴はそう言うと、愛麗の身体に紫のスカートを当てた。
「え、あたしスカートはちょっと・・・」
「前から思ってたんだけど、なんであんたってスカート嫌いなのよ?見た目可愛いんだから似合うと思うんだけど。オーバーオールばっかじゃ飽きるんじゃないの?」
「・・・その理由言わなきゃダメ?」
「足に傷があるから?」
「いや、それもあるけどスカート嫌いなのはもっと別の理由があるのよ・・・」
「すごく嫌そうな顔してるわね・・・別にいいわよ、誰にだって言いたくないことや苦手なものがあるのは当然だろうからね。」
和琴はそう言うとスカートを元の場所に戻したのだった。

「・・・って感じの受け答えをされたのよ。」
「愛麗がスカートを嫌いな理由ですか・・・その理由なら松姫さんもご存じのとおり愛麗の足に傷があるからではないですか?」
「もしくは服の好みの問題だと思うし。愛麗がサロペット好きなだけなんじゃん。」
「理由は傷とは別にあるって言ってたんだけど。」
「そうなんですか。愛麗から聞いたことがないので私にもわかりかねますね。」
「ふーむ、これは気になるわね。他の奴にも聞いてみるわありがとね。」
「そんな愛麗のスカート嫌いの真実を知りたいなんて暇なの?」
「んなわけないわよ。あたしは真実が知りたいだけなの!そのためなら自分の身体を使ったっていいしなんだってするのよ。」
「・・・松姫さん。知りたいことを知るという事は好奇心旺盛で素晴らしいことです。ですが、その結果で愛麗を嫌な気持ちにさせた場合は許しませんよ?」
「分かってるってばそんなに怒らなくたっていいでしょ。」
これ以上話を聞くと、凛世が怒る可能性を察した和琴は、そう言ってその場から去ったのだった。
「あっ、松姫さん・・・もう、松姫さんの好奇心旺盛さには時々呆れますね。」
「だけどあれがあいつなんだからしょーがないんじゃないの。」

和琴は次に幼馴染2人を除いて愛麗と仲がいい奈摘と嘉月に話を聞いてみる。
「・・・というわけなんだけど。有佐見と雷久保は南星がスカートを履かない理由について足の傷の事以外で何か知っていることはない?」
「愛麗ちゃんがスカート履かへん理由・・・足の傷の事はウチも聞いたことあるで。それ以外は知らへんよ。」
「お洋服は好きなものを好きに切るのが一番だと思いますわよ。和琴さんも元モデルですしそれはわかっているのではないですの?」
「あんたたちも闇雲や花蜜と同じこと言うのね・・・わかってるけどさ、気になってしょうがないのよ!」
「ずいぶん興奮しとるんやな・・・気になると真実を知るまで追求するんが和琴ちゃんの性分やから、ウチらでは止められへんな。」
「和琴さん、真実を追求することは時に身に危険を及ぼすほどのことが起こることもあるのですわよ?」
「そんなに気になるんやったら直接愛麗ちゃんに聞けばええんちゃう?」
「そのやり方で教えてもらえなかったんだけど・・・」
「でしたら、何か愛麗さんの好きなものをおごったりしてご機嫌を取って聞いてみたらどうですの?愛麗さんは根はやさしい方ですもの。気持ちをしっかりと伝えれば教えてくれると思いますわよ。」
「それいいわね!じゃ、早速南星の所に・・・」
和琴は愛麗の所へ向かおうと決めた・・・が、すぐに動きを止めてしまった。
「和琴ちゃん急に動き止めてどうしたん?」
「南星って今の時間授業受けてたっけ?」
「受けてたと思いますわよ。ですがもうすぐこの時間の授業は終わると思いますのでお昼も近いですし食堂にいらっしゃると思いますわ。」
「色々ありがとう有佐見に雷久保!南星に素直に聞いてみることにするわ!」
「ちゃんと聞けるとええな。」

和琴は食堂に着くと愛麗が座りそうな場所を中心に探す。すると、奥まった場所にある座席に座っている愛麗を見つけた。特に何か食事をとっているわけでもなくタブレット端末でネットショップで新型の模型を見ているようだ。
「南星ちょっといい?」
「和琴じゃない。もう少ししたら昼食にしようと思ってるけど一緒に食べる?」
「その前にちょっといいかしら、あたしのここ見せてあげるから、あんたの大事な秘密教えてくれない?」
和琴は愛麗に前乗りになる体勢を取ると服の胸元を開いて少しの下着と綺麗な形の胸の一部を見せ愛麗に迫る。
「何言ってんのあんた・・・暑さで頭おかしくなっちゃった?」
「えっ、これじゃダメなの・・・JKの胸よ?」
「和琴は美人だと思うけどあたしは凜世じゃないとだめなのよ。」
「・・・それもそうだったわね。」
和琴は愛麗の言葉に納得すると身を引き、愛麗の向かい側の座席に座った。
「それよりも大事な秘密教えろって急になんなのよ。」
「・・・南星がスカート履かない本当の理由って何?」
「あたしがスカート履かない理由?なーんだ。そんなこと知りたかったの。」
「前に駅ビルに買い物行ってスカートを勧めた時嫌そうな顔されてからどうしても知りたくて・・・足の傷とは別の理由があるんでしょ?」
「そうね、なら教える代わりにあれ奢って?」
愛麗はそう言うと食堂にある店の一角を指さす。そこにはプレミアムアイス1個680円と書かれていた。
「あれはさすがに高いんだけど・・・」
「秘密知りたいんじゃないの~?和琴ちゃん?」
「ったく・・・覚えてなさいよ!」
和琴は悪態をつきながらもプレミアムアイスを購入して愛麗の所に持ってきた。
「はい!これで秘密教えなさいよね!」
「分かってるわよ。」
愛麗はアイスを食べつつ、真相を語り始める。
「和琴はあたしの家が祖父母と姉と妹で構成されているのは知ってるわよね?」
「そうね。あんたの母親がポンコツだからあんたの祖父母が育てたんだったわね。」
和琴はアイスをおごらされた恨みなのか、愛麗の話に悪態を混ぜた相槌を返した。
「あたしの母親があれなのは間違ってないけど・・・だけどあたしを里親だった夫婦から引き取った当初は家に祖父さんしかいなくてね、しかも女の子だからいろいろわからなかったことがあったわけよ。その中でも一番問題だったのが服よ。」
「なんで服が一番の問題になるのよ?」
「和琴は初老の男性がさ、女の子供服売り場にいたらどう思う?」
「不審だなって少し思うかもしれないわね。」
「そういうこと。いい年した男の祖父さんにとってスカートとか女の子供服は買いにくいのよ。下着はネットで注文してたんだけど、服はやっぱり実物見ないと難しいじゃない?」
「そこはわかるわね。ネットで買ったらサイズが小さかった・・・ってこともよくあるからね。」
「女児の服なんて買えないから祖父さんが買ってくるのは自然と女の子が来ても問題ないようなユニセックスな服が増えてね。それであたしによく与えられたのがオールインワン系の服だったのよ。」
「それで南星はスカート着たいとか不満持ったりしなかったわけ?」
「そんなこと考えたこともなかったわ。足の傷に配慮してズボンにしてくれたんだと思うし、来ているうちに好きになっちゃったから。逆にスカートは滅多に履かないから自然と苦手になっちゃって。それにさ、中性的な雰囲気の服もアクセサリーや上着、髪型と併せれば可愛くできるじゃない?」
愛麗は今日着ているかわいらしいピンクと白デザインのパーカーの一部を掴んでさりげなくアピールしながらそう言った。
「南星から可愛くできるっていう言葉が聴けるなんて思わなかったわ・・・」
「あんたってほんと失礼よね。要約すると、あたしがスカートを履かないのは傷の事もあるけど、何よりオールインワン系の服が好みだからそれを生かせるようなファッションをするのが好きなの。これが真相よ本当の事知れて満足?もしくは納得いかない答えだった?」
「もちろん満足よ。しつこく聞いて悪かったわね。」
「そ、満足できたんならよかったわ。じゃ、あたしお昼買ってくるから。」
愛麗はそう言うと一部の荷物を置いて、昼食を買いに行った。
「・・・で、あたしはどうしようかしら。いつも闇雲と3人でが多いし、南星と2人きりで食事するなんて滅多にないから一緒に食べて行こうかしら・・・」
和琴が悩んでいると愛麗が戻ってきた。食事の乗ったトレーを2つ抱えて。
「これ和琴の分ね。食べてくんでしょ?」
「ありがと・・・お金はいいの?」
「いいわよ、さっきアイス奢ってもらったしお返しってことで食べていきなさいよ。あんまり借りを作りたくないタイプだからあたし。」
愛麗はそう言って、和琴の前に焼肉定食の乗ったトレーを、自分の前には唐揚げ定食の乗ったトレーを置いた。
「あたしに高い焼肉で自分は唐揚げって・・・やっぱり南星の方が一枚上手ね。」
「なんのこと?和琴は肉が好きだったから焼肉にしたんだけど、嫌だった?」
「違うわよちょっとあんたのやり方に感心しただけよ。さ、食べましょ。」
和琴は自分とは違い身体を使わずとも自然な行動で相手を惹きつけられる魅力を持った愛麗に感心しつつ、焼肉を食べたのだった。

水鉄砲バトル!

騎ノ風市は近未来都市だ。なので街全体の温度を調節する機能があるし、紫外線をガードする機能もあったりする。しかしそれでも暑いものは暑いのだ。
「今年は暑いわね・・・」
「今度の休みにみんなで市民プールでも行こうか?」
暑がる愛麗に咲彩がプールへ行くことを提案する。
「プールかぁ・・・前に変な奴に色々絡まれたことあったから嫌だなあたしは。」
「そうですよ!あのようなことをされたのですから愛麗に市民プールは危険すぎます!」
「そ、そうだよねなんかごめんね・・・」
「凛世ちゃん、別にさあちゃんはそう言うつもりで言ったんじゃないと思うんだけど・・・」
「それはわかってますけど・・・私は愛麗が危険な目に合うのが嫌なだけで・・・」
「せやけど、あん時は愛麗ちゃんがガラの悪い連中に無理やり水に沈められたもんなぁ。」
「たしかあの人たちは出禁になったって言ってたけど・・・違う人が突っかかって来る可能性だってあるよね。」
「ってかさ、アタシらが海とかプールとか行くと必ずと言っていいほどガラの悪い奴に絡まれたり、変な奴に出くわしたりするよな・・・なんでだろうな?」
「なんかあたしのせいで色々いい争いになってごめん。」
「こうなっちゃったのも暑さが原因なのかもね・・・」
「皆さん行き詰っているようですわね・・・わたくしにいい案がありますがどうですの?」
「いい案って何よ有馬殿?」
「実は郊外に新感覚の涼しさが味わえる施設がオープンしたのですわ。大人数で楽しめるアトラクションなので良かったら次のお休みに皆で行きません?」
「いいじゃん!楽しそうだし!レナちゃんもいいって思うよね新感覚アトラクション!」
「うん、新感覚のアトラクションいいかも・・・」
奈紬の新感覚アトラクションという言葉の響きで環輝とエレナが乗り気になる。
「家で研究しているばかりの環輝がそこまで食いつくなんて珍しいわね・・・」
「研究者としては常に新しいものを追い続けないと気が済まないの!」
「研究者言うより、ギャル的なノリに見えるんやけど・・・」
「きっかけは何でもいいんじゃない?興味を持ったら何でもやった方がいいってボクは思うけど。」
「インドアのたまちゃんとレナちゃんがあそこまで興味を持ってるなんて珍しいね・・・私たちも行ってみようか?」
「そうだな。ずっと家の中にいても健康に良くないしな。」
「うむ、我も夏休みになって家に居づらいから参加するのだ。」
「では皆さん参加という事で・・・次の日曜日に予約しておきますわね。」

次の休日、1組の生徒たちは奈紬に連れられて全員で騎ノ風市の郊外にある施設にやってきた。その施設には水鉄砲バトルロワイヤルと書かれていた。
「バトルロワイヤルって・・・殺し合いならごめんなんだけど。」
「まだ死にたくないです。」
「いえいえ、そういう意味の施設ではありませんわ。チームに分かれて水鉄砲で撃ち合ったり水風船を投げつけたりして楽しむのですわ。」
「それやってなんで涼しくなるんだ?」
「使う武器が銃ではなく水鉄砲なのですわ。チームに分かれて相手チームに水をかける・・・そんなゲームなのですわ。」
「そういうことか。水をかけあえば確かに涼しくはなるよな。」
「それは楽しそうだね。ボク期待しちゃっていいかな?」
奈摘の説明を聞いた水萌は納得し、柚歌は期待を高める。
「チームとかはどうやって決めるのだ?」
「仲のいいメンバーで・・・と思ったのですがたまには新鮮さが必要かと思いますので、こちらのコンピューターを使ってすでに割り振ってありますわ。」
奈紬は12人の目の前にあるモニターを指さす。そこには・・・
Aチーム 愛麗 凜世 水萌 柚歌 奈紬 嘉月
Bチーム 咲彩 和琴 苺瑠 陽瑚 環輝 エレナ
となっていた。
「この組み合わせは完全なランダムですので、変更はできませんわよ。」
「チームのリーダーは私とらっちゃんみたいだね。」
「愛麗と同じチームで嬉しいです。」
「アタシは咲彩と別かよ・・・」
「みなちゃん落ち込まないで一生の別れじゃないんだから。」
「では皆さん、まずはルールの説明ですわ。」
奈紬はそう言うと、モニターを操作する。すると、画面にロボットが映りルールの説明を始める。
『水鉄砲バトルロワイヤルへようこそ。私はルール説明担当のロボッツだ。では、皆さんにルールの説明をさせていただこう。この競技はAチームとBチームに分かれ、水鉄砲と水風船を使って相手チームにダメージカウンターにぶつけ、先に相手チームを全滅させた方が勝利となる。水鉄砲はウォ-ターガンタイプのものを用意してあるのでそれを使用してもらう。また、プレイヤー全員は腕にダメージカウンターを装着してもらう。このダメージカウンターは相手チームの水鉄砲から発射された水が1発でも当てられると脱落となる。なお、水鉄砲の水の補充はフィールド上にある蛇口でしか行えないので慎重に使うといい。なお、水鉄砲で狙う場所はダメージカウンターでなくても構わない。では、諸君たちの健闘を祈る。』
案内役のロボッツが映ったモニターはそこまで言うと消えてしまった。
「では、ダメージカウンターはこちらですので、これを装着してフィールドへ出てくださいまし。そちらに水鉄砲や水風船が用意されてますわ。」
「水鉄砲での打ち合いかぁ・・・これは涼しくなりそうね。」
AチームBチームの二手に分かれた12人は用意された水鉄砲を持ってダメージカウンターを装着し、フィールドに出たのだった。

2チームが向かい合い、指定の位置に立つと「試合開始!!!」と、力強い言葉がフィールド上に響き渡り試合開始の合図が告げられる。
「えっと・・・これをダメージカウンターに向かって撃てばいいんだよね。それっ!」
咲彩が手持ちの水鉄砲を愛麗に向かって撃つ。しかし、命中したのはダメージカウンターではなく胸の真ん中あたりだったが。
「きゃ・・・どこ撃ってんのよ!そう来るなら、あたしはこれで反撃するか!」
愛麗はすぐさま自分の水鉄砲を咲彩の髪に向かって当てる。
「きゃっ!・・・もうらっちゃん、髪に当てちゃだめだよ!」
「なるほど・・・水鉄砲を相手のダメージカウンターに当てて倒していくゲームなのですね。」
「感心している場合じゃないだろ早く回避か攻撃しろよ凜世!」
「ひゃっほー!これめっちゃたのしーじゃん!!!」
「ただ水を当てるだけのゲームだけどこれは面白い・・・」
「ダメージカウンターを守ることで身体に水がかかることによって涼しくなるからいいよね。行くよ陽瑚ちゃん!」
「ユズちゃん、急に水当てないでぇ!避けられないよぉ。」
「うむ、力をいれなくても楽しめるいいゲームなのだ!」
「ひゃん!額狙うんはやめてや!」
「全く、こんなことぐらいではしゃぐなんてあんたたち子どもね。」
「お前も同い年だろ!さっさと除けるか攻撃するかしないとアタシがやっちまうぜ!」
「皆さん楽しく水鉄砲合戦してくれてよかったですわ。さ、わたくしも行きますわよ!」
そんな感じで水鉄砲で楽しく遊ぶ愛麗たち。その姿を見ているだけで楽しそうだ。

同じころ施設の入り口ではもめごとが起こっていた。
「ちょっと!今日は私様が予約したんだけど貸切ってどういうことよ!」
「すいません・・・今現在団体のお客様がご利用されておりまして・・・」
「数日前に今日の利用予定で悪寺で予約したんだけど!?」
「悪寺様のご予約は確認しましたが本日は入っておりません・・・」
何人かの取り巻きを連れて、ガラの悪そうな悪寺という女が施設の係員に詰め寄っていた。
「悪寺様・・・別の方の予約が入っているのですから帰りましょうよ。」
「嫌よ!私はこの施設で涼しい思いをするの!もういいわ私様が用意した水鉄砲と水風船はあるわよね!?遊んでいる奴らを叩き潰してやるわ!」
「はい・・・ありますがあれは危険ではないでしょうか・・・?」
「関係ないわ!私様の予約を無視して遊ぶ連中なんか叩き潰してあげる!」
「ちょっとお待ちを・・・」
悪寺と名乗った少女は取り巻きを引き連れ水鉄砲を抱えると係員を無視して愛麗たちが遊ぶ施設の中に無理やり乗りこんでいった。

そんなことは知らない愛麗たちは夢中になって遊んでいた。開始から数十分経っていたので皆バラバラになってしまい、この場にいるのは愛麗と咲彩だけだ。
「咲彩、なかなかやるじゃない。」
「らっちゃんだって・・・ここまで動きが速いとは思わなかったけどね。」
「日々の軽い運動は無駄じゃなかったってわけよ。よし、次で勝負をつける・・・」
愛麗がそう言いかけた時、横から赤色の水風船が飛んできた。赤色の水は咲彩と愛麗にそれぞれぶつかり、割れた風船から赤色の水が散布し、2人に少しかかってしまう。
「ちょ、この赤い水は何なの・・・辛い!?」
「なんなのこれぇ・・・辛いよ・・・」
赤い水が飛んできた先からは受付の女性といい争いをしていた悪寺という少女と取り巻きが現れた。
「貴方たち!私様たちが予約した施設で何好き勝手に遊んでいるの!?」
「あんたたちこそ何なのよ!それにこの水風船何なの!?」
「これは私様が開発した唐辛子入り水風船よ。すごい威力でしょ?私様は悪寺姫妃(プリンセスクイーン)。生まれながらにして貴族の姫なのよ!」
「貴族の姫?ちょっと何言ってんのかわかんないんだけど。」
「プリンセスクイーン?厨二病さんかな?」
「違うわよ!私様は本当に貴族の血を引く良血統なの!雑種の貴方たちと一緒にしないで頂戴!!!」
「雑種って・・・犬じゃないんだから血統も何もないじゃん・・・」
「うるさい子ね!貴方たち!唐辛子水鉄砲をこいつらにかけてやりなさい!失明させてやる!」
「は、はい・・・」
取り巻きたちは気が進まないようだが、悪寺の命令で仕方なくで水鉄砲の銃口を咲彩と愛麗に向ける。
「失明!?どうしようらっちゃん・・・」
「こっちは2人で向こうは5人・・・咲彩、今は緊急事態だからここを離れて他の子たちにスマホで連絡して。」
「らっちゃんはどうするの?」
「あたしがこいつらを引き付けておく。その間に何とかしてくれればいいから。」
「らっちゃん・・・ごめん!」
咲彩は愛麗にひとことそう言うとその場を離れて逃げた。
「ちっ、1人逃げたみたいね・・・」
「あんた達の相手はあたしがする。」
「へぇ、ここは私が引き付けるからあんたは逃げろってところかしら・・・そう言うの大っ嫌い!あんた達、あのチビに向かって発射!」
悪寺は取り巻きたちに唐辛子水鉄砲を発射するように指示した。愛麗はなんとか悪寺達の攻撃をかわしつつ、自らも水鉄砲で応戦した。
「(咲彩、急いで・・・)」

一方の咲彩は水鉄砲合戦をしていた全員に連絡を取り、近くにあった隠れられそうな場所に集めると今回の事情を説明した。
「・・・ということなの!このままだとらっちゃんがその悪寺とかいう子たちに怪我させられちゃう。なっちゃん、急いで施設の人に連絡を取ってもらえる?」
「分かりましたわ・・・はい、はい・・・先ほど受付でもめごとがあったみたいでして、もうすでに警備隊はこちらに向かっているようですわ。」
「愛麗・・・心配です・・・」
「南星ってそんなに体力持つ方じゃないわよね・・・あたしらで南星を助けたほうがいいんじゃないかしら?」
「何とかするって言ったって・・・相手は唐辛子水鉄砲を持ってるんだろ?素手で倒そうとしたら逆にやられちまうんじゃないか?」
「しかも失明させてやるって、向こうはウチらをの目を潰す気満々やん。」
「ボクたちにもここにある物で何かできることがあればいいんだけど・・・」
「物って言ったって、この辺には木しか生えてないじゃん。」
「あっ、今の環輝ちゃんの言葉でいいこと思いついたよぉ!」
「どうしたのはるちゃん?」
「ここに生えている木を使って道具を作れば対抗できるんじゃないかなぁ?」
「道具・・・それだよ!レナちゃん、木で何か作れそうな武器はない?」
「木・・・私が作れそうなのはパチンコ位。だけど・・・今日は運よくこれ持ってる。」
エレナは愛用のポーチからヘリウムガスの入った缶を取り出した。
「ヘリウムガスでなにができるんですか?」
「確かにこれだけじゃ難しい。だけどこのガスを弾に詰めてパチンコで打ち出せば相手の声を変えられるから動揺させるぐらいはできる。殺傷能力もないから安心。」
「効果があるか分からないけど、やってみる価値はありそうだね。」
「よし、愛麗を助けるためにもみんなやるぞ!」
「愛麗を助けるためなら手伝います!」
咲綾たちはエレナを中心にパチンコの制作とヘリウムガス弾の制作に取り掛かる。
「そういえばなんでレナちゃんヘリウムガスなんかもってんだし?」
「たまーにだけど自分の声を変えたくなることがあるの・・・」

「もっと目と口と皮膚を狙いなさい!」
「は、はい・・・(疲れてきた・・・)」
「分かってます・・・」
「きゃ・・・また向こうから水が・・・」
「相手から反撃が来るのなんて当たり前でしょ!怯むんじゃない!!!」
「(あたしも疲れてきたけど・・・向こうの動きが遅くなってるようにも見えるわね。)」
愛麗は咲彩を逃がした直後から、悪寺の取り巻きたちが撃つ唐辛子水鉄砲を自分の持っている水鉄砲で反撃しつつかわし続けていた。
しかし、愛麗の動きが速いのか、悪寺に怒鳴り散らされることによって取り巻きたちが疲れてきたせいなのか定かではないが今のところ一発も当たっていない。
「この役立たず共が!もう限界、私様がこのスナイパーライフル型水鉄砲であいつを射抜く!これなら確実に当てられるしね。」
悪寺は我慢ならずに自分の水鉄砲を取り出して愛麗の目に標準を合わせ、撃つために構える。
「あんなので狙われたりしたらもう避けられない・・・」
「ふふ、これで終わりよ!!!」
悪寺が愛麗の右目に標準を合わせ、唐辛子水鉄砲を発射しようとしたその時・・・
「愛麗!」
凜世が現れて悪寺に向かってエレナ作のパチンコを撃った。弾はしっかりと目標である悪寺に命中し、弾からヘリウムガスが飛び散った。
「ちょ・・・何よこれ、声が変になってる!?」
「皆さんも愛麗を助けるために早く撃ってください!」
「分かってるわよ急かすな!」
「わたくしパチンコは初めての経験ですわ。」
「了解だし!」
「これでいいのかな・・・」
凜世の指示で次々にヘリウムガス弾を悪寺と取り巻きに当てていく。
「悪寺様・・・私たちも声が変になってしまいました・・・」
「うるさいわね!怯むんじゃないわよ!」
ヘリウムガスによって変声した声で悪寺は取り巻きたちを怒鳴る。
「愛麗!大丈夫ですか・・・?」
「もう疲れたよ・・・」
「うむ、今はゆっくり休むのだ。」
悪寺達が動揺している隙に凛世と苺瑠が疲れ切った状態の愛麗を助け出した。
「人質が・・・」
「あなたたち!この施設は今現在わたくしたちが使用中なのですわ!勝手に好き放題暴れてただで済むと思わないでくださいな!」
「やかましいわね!あんたたち全員失明させてやる!」
人質(?)だった愛麗を救出されてしまって怒り狂った悪寺は水鉄砲を周囲に乱射しまくる。
「みんな避けて!あの水は危険なの!」
咲彩が乱射をなんとかよけるように指示するが、無鉄砲でこそあったが何人かは被弾してしまった。
「これ何なの右腕の皮膚が痛いじゃん・・・」
「ひりひりするんやけどなんなんこれ・・・」
「あーっはっはっは!私様はね、敵が傷ついている姿を見るのが大好きなのよ!愉快愉快!!!」
被弾した嘉月と環輝を見てあざ笑う悪寺。その時草陰から10人ほどの大人が飛び出してきた。
「奈摘お嬢様!警備隊到着しました!」
「・・・ちょっと遅かったですが、あの不正をした者たちを捕えなさい!」
「承知しました。」
警備隊は悪寺達を取り囲むとあっという間に悪寺と取り巻きたちを取り押さえ捕まえた。
「離しなさいよ!私様はこんなところで捕まるような奴じゃないの!!!」
「大人しくしろ!不正な武器の持ち込みは反則だ!」
「覚えてなさいよあんたたち!」
悪寺は捨て台詞を履いて取り巻きたちと共に連行されたのだった。
「皆さん申し訳ありませんわ、わたくしがここを紹介したばかりに・・・」
「奈摘が悪いわけじゃないでしょ。」
「そうだよぉ。それにあの子たちだって本当は遊びたかっただけなんじゃないかなぁ?」
「齋穏寺、あいつらに限ってそれはないわよ。」
「水の掛け合いは夏らしくて楽しかったで?」
「皆様ありがとうございますわ・・・こんなに素敵な友人たちがいてわたくしは幸せですわ・・・」
「今日は帰りましょうか。もしよければ日にち改めてこの施設を満喫していただければいいのですが・・・」
「もちろんよ。今度は邪魔者なしでウォーターガンの打ち合いやろっか。」

水鉄砲施設での事件から数日後。夏が終わりかけているとはいえまだまだ暑い。愛麗たちは地下書庫で厳しい残暑をやり過ごしていた。
「夏が終わりかけているとはいえ、暑さは変わんないわね・・・あーもうここから出たくないっ!」
「それにしてもこの前の水鉄砲施設、邪魔さえ入らなければ涼しくて楽しかったと思うのだ。」
「あの時は結局疲れちゃったねえ。」
「あたしたちって変な奴に絡まれる星の下にでも生まれて来たのかしら・・・」
「ほんとよね。夏になるといつも同じようなことが起こるじゃない。」
「愛麗、松姫さん。そんなに落ち込まないでください。夏が来ると変な人が増えるっていうじゃないですか、あの方達はその変な人に該当する存在だったんですよ。」
「確かに冬になるとあまりそういう奴らに絡まれることは少ななるなぁ。」
「結局あの悪寺って奴は何者だったんだろうな?」
「調べてみたけど・・・お嬢様学校とは名ばかりの隣町にある無利ン畝巣(プリンセス)学園っていう落ちぶれた人間が通う学校の生徒みたいだし。生徒の素行も最低レベルって書いてあるよ。」
「それでよく高校として成り立ってられるな。」
「そんな名前の学校あるんだね・・・」
「その学園の経営者のやる気のなさが名前を聞いただけで伝わってくるのだ。」
「皆さん落ち込んでいるようですし今度はわたくしたちの実家の傘下にあるプールに行くのはどうですの?わたくしの権限で貸切にもできますわよ?」
「奈摘、しばらくそういう施設はいいかな・・・どうせなら普通にショッピングとか行こうよ。」
「確かにその方がいいのかもしれませんわね・・・」
奈摘は愛麗の言葉に納得しながらそう言ったのだった。
なお、悪寺と取り巻きは他校の生徒に危害を加えたということで、悪寺が1か月、取り巻きが1週間の謹慎になったんだとか。

南星家の晩餐

その日、愛麗、凛世、和琴はの3人はすっかり夜が更けた道を歩いていた。
「今日は遅くなってしまいましたね・・・」
「悪かったわねあたしの小説選びに付き合わせちゃってさ。」
「2人が良ければだけど、あたしん家で晩御飯食べてく?」
「いいのですか?・・・ですが、愛麗のおじい様の許可取らなくていいんですか・・・」
「いいよ、祖父さんたち今日は会社の方で忙しいって言ってたからいないし・・・姉と妹はいるけどいいよね?」
「もちろんです。お誘い受けましょう松姫さん。」
「しゃーないわね行ってあげるわ。だけど家に連絡入れないと・・・闇雲もやっておきなさいよね。」
「分かってますよ。」
凜世と和琴は家に遅くなる連絡を入れた後、3人は愛麗の自宅でもあるマンションに向かって歩き出す。

数分後、3人は愛麗の家でもある中型マンションのサウスハイツに着いた。
「南星の部屋って何階だっけ?」
「あー違う違う。うちの晩御飯は管理人室で食べてるのよ。だからこっちね。」
愛麗は2人を自室ではなく1階の管理人室に案内した。管理人室は窓口の奥に8畳ほどの広さのオープンキッチンがあり、ダイニングテーブルとチェアが設置されていた。
「家庭的でよいお部屋ですね。」
「ここには住んでないけどね。そこの椅子座って待っててそのうち姉と妹来ると思うけど気にしなくていいから。」
愛麗はそう言うとキッチンの中に入って行った。
「ここが愛麗が毎日お食事をしている場所・・・おしゃれで素敵です。」
「別に普通のオープンキッチンじゃない。」
「いえ、このキッチンのインテリアは愛麗が決めたんだろうなって思うと・・・」
そこにエプロンをつけた愛麗が出てきた。
「あたしはこの部屋には何もしてないわよ。このキッチンのインテリアは祖父母が決めたの。」
「愛麗、エプロン似合ってますね。」
「あんた料理する時ってエプロンするんだ・・・」
「服汚したくないし、料理する時エプロンするのは普通じゃないの?」
「南星は水分とかの飛び跳ねなんて気にしない豪快なタイプだと思ってたもんだから意外で・・・」
「あんた人の事なんだと思って・・・」
愛麗がそう言いかけた時、管理人室の扉が開き愛麗の妹である香楓が入ってきた。
「愛麗ちゃんもうご飯できた?」
「・・・まだよ。おとなしく座ってて。それと今日お客さんいるから、変なことしないでね。」
「はーい。」
香楓はそう言って自分がいつも座っている椅子に座る。
「お客さんって凛世ちゃんと和琴ちゃんなんだ。」
「はい。今日はよろしくお願いしますね香楓さん。」
「ご飯できるまでTVでも見ない?うちはCS契約しているから色んなチャンネル見放題だよ?」
「妹、映画チャンネルにしてくれない?今日あたしが前に読んだ小説の映画が放送されるのよ。」
「香楓さん、音楽のPVを流しているチャンネルありますよね?私はそちらが見たいです。」
「えー・・・どっちにすればいいかな・・・ねえ愛麗ちゃんどうすればいい?」
2人から投げかけられた意見に困った香楓は愛麗に助けを求める。
「今忙しいんだけど・・・あたしがあえて言うならアニメチャンネルね。JKイレブンやってんのよ今の時間。」
「そうなんだ。あたしもJKイレブン好きだしアニメチャンネルにしよっと。」
香楓は凜世と和琴の意見を無視してJKイレブンが放送されているアニメチャンネルにチャンネルを回した。
「え・・・あたし興味ないんだけど・・・」
「愛麗の好きな作品であるJKイレブンならぜひ見たいです。松姫さんも見れば変わると思いますよ?」
「しゃーないわね・・・」
「あ!今日2期の1話からなんだ!新たな目標に向けて走る湯野宮ちゃんたちの活躍が見れるんだよね。」
「そうなんですか。2期はまだ見ていないので楽しみです!」
香楓と凛世は期待のまなざしでTVを見る。その一方で和琴は興味なさそうにTVの方を見る。

その一方でキッチンの中にいる愛麗は調理の作業を進める。今日のメニューはサラダうどんのようだ。
「(JKイレブンあたしも見たいけど今は調理に集中しないと・・・)」
愛用の包丁で手際よく野菜をカットし、それと同時に横のボウルで調味料を混ぜ合わせて出汁を作る。IHコンロに置かれた鍋では湯が煮えたぎっており、これでうどんを茹でるようだ。
「サラダうどんだけじゃ足りないかな・・・あと何か材料あったっけ冷蔵庫見てみよ。」
愛麗は冷蔵庫の扉を開けて中を物色し始める。そこに、さっきまでJKイレブンを見ていたはずの和琴がキッチンに入ってきた。
「南星、なんか手伝う?闇雲と妹がJKイレブンに熱中しちゃってやかましいったらないのよ。」
「そうなの。なら・・・」
愛麗は冷蔵庫を物色して、中からそれなりに大きいかたまり肉を取り出して和琴に渡す。
「この肉をメインディッシュにしようと思うから焼いてもらえる?あんたこういうの得意でしょ?」
「いい肉じゃない。豪快に焼いてあげるわね。」
「あっ、ちょっと待って・・・そのブラウスとスカートおしゃれそうだから汚れると困るでしょ、これつけなさいよ。」
愛麗は自分の着けていたエプロンを取って和琴に渡した。
「これ南星のでしょ・・・それにこれをあたしに渡したら南星が汚れるじゃない。」
「いいわよ。お客なのに自分から手伝おうって言う姿勢が立派だとあたしは思うから。」
「悪いわね。」
和琴は麗から受け取ったエプロンを着用した。
「サイズ合ってるのね。南星は小柄からもっと小さいと思ってたけど。」
「それどういう意味よ・・・子供用じゃないんだから和琴が着用しても問題ないに決まってるでしょ。それじゃ、肉の調理は任せたから。」
愛麗はそう言うとサラダうどんの調理に戻る。
「さーて、肉に下処理して・・・これを豪快に焼いていくわよ!」
一方の和琴は肉に下処理を施し、鉄板・・・はないのでフライパンで肉を豪快に焼いていく。
「(上手だな・・・あたしも負けてられない。)」
肉を上手に調理する和琴を見て、愛麗も自分の作業に力を入れた。

そして20分後。愛麗と和琴が調理を終えた料理を持ってキッチンから出てきた。
「ご飯できたわよー。今日はサラダうどんと和琴が焼いてくれた肉ね。」
「愛麗ちゃんお疲れー!今日も美味しそうだね!」
「お疲れ様です愛麗・・・はっ、松姫さんいつの間にそちらに?しかもそれ愛麗のエプロンでは・・・」
「南星が貸してくれたの。服に汚れが飛び散らないようにってね。」
「羨ましいですね・・・愛麗、次は私にも手伝わせてくださいね。」
「機会があったらお願いするわ・・・それにしてもまだ来ないのかはじ姉は・・・」
愛麗はまだ来ない創に悪態をつきながら、和琴と共に持ってきた料理をテーブルに並べる。
「あたしが呼んでこようか?」
「いいわよ。たぶん・・・」
愛麗はスマホを取り出すとSNSの創のページを開いて1つの投稿を見つけ出し、それを見せた。そこには先輩と飲み会!いえーい最高!という文章と共に創芽と宇織がバーと思われる場所で酒を飲んでいる所が写った写真が投稿されていた。いいねは30ほどついている。
「連絡もせずに和琴のお姉さんと飲み歩いているみたいね。」
「ウチの姉が誘ったのかしら。ごめん南星。」
「別にあんたのせいじゃないでしょ。だからはじ姉はほっといて食べようか。それじゃ、いただきます。」
愛麗の一言で南星家の晩餐が始まった。TVからは2話目のJKイレブンが始まろうとしているところだった。
「愛麗の愛情がこもったお料理美味しいです。私は蕎麦が好きですけどたまにはうどんもいいですね。」
「この季節だと麺が一番楽に作れるし楽に食べられるからね。サラダうどんならエネルギーと一緒に野菜も取れるしいいでしょ。」
「あたしが焼いた肉も食べていいわ・・・あ、闇雲は嫌いだっけ?」
「え、お肉は嫌いではないですからいただきますよ?」
「今日はいつもより賑やかで楽しいな。」
父母のいない特殊な家族であっても南星家の晩餐は比較的賑やかだった。

食事終了後。凛世と和琴は帰宅のためサウスハイツの自動扉の前にいた。
「今日はご馳走様でした。」
「2人とも本当にいいの?家まで送っていくわよ?」
「別にいいわよ。片付けとか大変でしょ心配しなくても家までの道ぐらいわかるわよ。」
「そう・・・なら気を付けて帰ってね。最近は物騒な奴も多いから。」
「はい、今日は色々とありがとうございました。今度はお料理私にも手伝わせてくださいね。」
「また学校か地下書庫でね。」
凜世と和琴は愛麗にそう言うと、自分たちの自宅へ向けて帰っていく。
「さーて・・・あたしは戻って食器の片づけしようっと。何か忘れているような気がするけどまあいいわ。」
愛麗は食事の後を片付けるために管理人室へ戻ったのだった・・・

その日の夜更けの事。ワインやらウイスキーやらを飲んで酔っ払った創芽が帰ってきた。
「ふへへ~今日はお酒しか飲んでないから愛麗ちゃんの晩御飯楽しみだな~。」
創芽は愛麗が早めに寝るタイプであることも忘れて、のんきにサウスハイツの自動扉をカードキーで開く。
「あれ~?管理人室誰もいないのぉ~?」
当然である。管理人室は夜間は誰もおらず管理人である祖父母も仕事を終えて自室に戻って寝ているし、愛麗や香楓も自室ですでに眠りについてる。
「晩御飯は・・・そうだ、メッセージアプリを使って愛麗ちゃんに聞いてみよう・・・」
メッセージアプリを開くと愛麗に晩御飯はあるかなどのメッセージを5回書いて送信したしかし・・・眠りを妨害されて機嫌が悪かった愛麗は数秒で以下のメッセージを書いて創芽に返すと再び眠りについてしまった。
「宇織さんと楽しそうに酒飲んでたくせに晩御飯だせだと?あるわけないでしょ?睡眠の邪魔すんじゃねえよ!」
「そんなぁ・・・」
創芽は妹たちと比べて家事が不得意なタイプなので簡単な料理すら作れない。今からコンビニや飲食店に行くなど考えられない。なので、この状況は詰んだということと同義だろう。
「ああ、空腹が酷くてもうだめえ・・・」
結局、創芽は空腹のあまり管理人室の前で倒れこんでしまったのだった。

次の朝。愛麗はいつも通り早起きし、軽い運動を終えたのち管理人室で朝食を作ろうとしたら、管理人室の前で寝ている創芽に気づいた。
「・・・なんでそんなところで寝てんのはじ姉。」
「おはよー愛麗ちゃん。朝ごはんまだかなおなかすいちゃって・・・」
愛麗は朝食をねだる姉にあきれた表情をしながらもこう言った。
「・・・これから作るところだから中入って待ってればいいんじゃない。」
「ありがとー!愛麗ちゃん大好き!」
「(全く、単純な姉なんだから・・・)」
愛麗はきつい物言いをすることはあっても根は優しいのである。