神風市の歴史

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ある日の休日のこと。和琴は騎ノ風市立図書館で調べ物をしていた。
和「ふーん・・・なかなか奥が深いのね。あたしでもよく分かるように書いてあるわこの本。」
ア「和琴サン何してるデスか?」
調べものをしている和琴の横から白髪をバレッタで纏めた小柄な少女が声をかけてきた。和琴と同じクラスに所属しているロシア人の少女ラニー・フェダーク・藤金だった。
和「あら藤金。知ってると思うけどここに漫画はないわよ。」
ア「そんなことは知ってマス。和琴サンの姿を見かけたのでちょっと声をかけようと思ったデス。何してるんですか?そんなに分厚い書籍を読み漁って・・・」
和「ん、ああこれ?今この町・・・騎ノ風市の歴史について調べてたところよ。」
ア「そうだったんデスね。だけど和琴サンって歴史とか興味ありましたっけ?」
和「ちょっと気になることがあってね・・・あたしは深谷生まれだしこの町の歴史は知らないから心理学の専門書を出すにあたってちょっと本を書く練習をしようと思ってね。」
ア「立派ですけど・・・さすがに気が早いデスよ・・・」
和「何言ってんのよ藤金!やりたいことっていうのは、決まったら若いうちから経験しておいた方がいいに決まってるのよ。周囲との差別化点にもなるし、あたしの大嫌いな媚びへつらう人間にもなる必要ないのよ。」
ア「そうデスね・・・今回の場合は和琴サンのいう事が正しいデス・・・それで、どんな感じに書いてたのデスか?」
和「まだ書きかけだけど読んでみる?」
ア「ぜひお願いしマス!」
和「そう。それじゃこれね。あたしは続きを書いてるけど、聞きたいことがあったら聞いていいからね。あ、それとこの歴史書に出てくることは実際の物とは大きく異なっているわ。実際に加須市や鴻巣市にいってもこの歴史書に出てくる地名は存在してないからね。」
ア「和琴サン誰にそれ言ってるデス?まあワタシは歴史書を読んでみるデス・・・」
ラニーは和琴から書きかけである騎ノ風市の歴史書を受け取ると読み始めた。

~騎ノ風市の歴史 その1~
騎ノ風の地はかつて騎ノ風村、白見台村、月詠村、城南村、神崎村、飛鳥村、樹村、小日向村、雷門村の10の村に分かれていた。
西暦1558年のこと。これまで難なく平和に暮らせていた北武州(現在の騎ノ風市北部)の地域で
4つの一族が自分の地域に互いに領土の拡張を求め動き出した。4つの一族にはそれぞれに得意とするものがあった。
まず、政治と信仰の力に優れた石原一族。彼らは古代より北武州の地に住んでいた人種で神を立て祭り、信仰を重ねることによってどんなことをした人間でも許されるという理論を持ち合わせており、最も土地の大きかった騎ノ風村を自分たちの領土としていた。
次に商工に優れた城南一族。彼らもまた古代から北武州にいた種族であり、石原一族とも仲が良かったと言われる。ものづくりの技術に優れ、当時彼らが作った道具は騎ノ風歴史資料館に保管されている。城南村を拠点に白見台村と嵐月村を統一していた。また、現在の武州荒木(行田市東部)の周辺も領土だった。
そして、芸術に優れた神崎一族。彼らは西の都(現在の京都)から移住してきた民族で、自分たちの芸術を世界に広めようと騎ノ風の地にやってきた民族である。神崎村を中心に飛鳥村と樹村を領土としていた。
最後に雷一族。彼らは元々は堺(現在の大阪)にいた民族であり、神崎一族と同様移民である。狩猟と海洋の知識に優れていて船を使って漁を行っていたらしい。騎ノ風の地には海がないが、現在の騎ノ風国立公園にある水晶の湖で魚を取ったり、時には相模(神奈川)や常陸(茨城)の海まで行って漁をしていたらしい。東部にある雷門村を拠点として隣の小日向村で狩りの道具や漁船の製造を行っていたらしい。
また、西の地(現在の行田)には忍(おし)一族と天宮城一族、南の地(現在の騎ノ風市南部)は西園寺一族がそれぞれ治めていたと言われている。

ア「かつての騎ノ風市は多くの地域に分かれていたんデスね・・・」
和「あたしだって初耳のことはたくさんあったわよ。騎ノ風市の成りたちがこんなに複雑だなんて・・・それよりも、あたしの先祖については何も書かれてないわ!昔から深谷にいる家系なのに!」
ア「騎ノ風の歴史ですから、深谷は遠すぎる場所だと思うデス。」
和「うちのおばーちゃんはかなり昔からこの地に住んでたはずなんだけどね・・・」
そんな時、2人に声をかけるものがいた。ショートヘアにウサ耳リボンを巻きつけ、露出の高い私服が特徴の塩車櫻子だ。
櫻「やっはろー。2人ともそんなところで何してんの?図書館デート?」
ア「あ、櫻子サンじゃないデスか。どうもデス。」
和「別にそう言うんじゃないわ。ちょっと理由があって騎ノ風の歴史について調べてたのよ。あんたも暇ならそこにあたしが書いた資料あるから読んでていいわよ。」
櫻「騎ノ風の歴史かぁ・・・自分は昔からここに住んでる家系じゃないから少し興味あるなぁ。ラニーちゃん、一緒に読んでいい?」
ア「もちろんデス。」ラニーは櫻子を隣の椅子に座らせ、和琴が書いた資料を先ほどの続きから読み始めた。

~騎ノ風市の歴史 その2~
4つの一族に領土を広げるよう仕向けたのは東の地(現在の加須、久喜)の地域に住む天竜一族だった。天竜一族は騎ノ風の地を自分たちの領土にしようと吹き込み、4つの一族を争わせていたのだった。4つの一族を争わせることにより弱ったところを襲って領土にするという汚い手段を使って・・・しかし、その目論見に気付いたものがいた。神崎一族の若き参謀神崎悠里だ。悠里は元々争っていなかった4つの種族が争いを頻繁に起こすようになったのは何か理由があるのではないかと神崎一族の長の許可をもらって調査をした。そして裏で天竜一族が糸を引いているのを見つけたのだった。悠里はすぐに長に報告した。最初は長以外の人間は半信半疑だったが、悠里の詳しい調査によってそれを明確づける内容を発見した。神崎一族はすぐにこのことを他の一族へ伝えた。
石原一族の長はこれを信じ、領土拡張の争いを中断した。
城南一族の長も同じく、争いが仕組まれている物だと知り、中断した。
雷一族だけは天竜一族によくしてもらっていたので、信じようとしなかったが他の一族から弾圧され、結局折れた。4つの一族は天竜一族との戦争は避けられないと考え、天宮城一族と西園寺一族、更には北の地(現在の羽生)にいた岡野一族と手を結んだ。1567年。天竜一族との長きにわたる戦いが幕を開けた。同盟一族側はそれぞれの得意分野を合わせ、天竜一族に挑んだ。
中心部で石原一族が指揮を執り、城南一族と雷一族が作った武器で神崎一族と同盟国の兵士が攻撃にあたった。最初は全ての指揮を自分の国だけで賄える天竜一族が押していたが、次第に天竜一族の中でいつ終わるか分からない恐怖政治に反発した者によって、内戦が頻繁におこるようになり、同盟一族側が巻き返した。そしてついに天竜一族を東の地から追い出すことに成功したのだった。その後彼らは現在の常陸の国(茨城県)に逃げ延びたという。この大戦争をきっかけに同盟一族側は親睦を深め、特に石原、城南、神崎、雷の4つの一族は助けあうようになった。そして4つの一族は協力し合うことを決め、1588年に騎ノ風村を中心とする10の村を合わせて騎ノ風藩と呼ばれるようになった。
その後、騎ノ風藩は300年の長きに渡るまで政治が続いたのだった・・・

ア「感動的デス!騎ノ風市にはこんな素晴らしい歴史があったのデスね!」
櫻「自分も最後はなんだか久しぶりに感動したよ・・・」
和「あら、もう読み終わったのね。だけど・・・本番はここからよ。」
ア「どういうことデス?」
和「最後まで読んでいたらね・・・この4つの一族の子孫があたしたちの周りにいるみたいなのよ。」
ア「え?そうなんデスか?」
櫻「ちょっと興味深いよねそれ。」
和「はい。最後の章よ。」
和琴はラニーと櫻子に歴史書をまとめた書類の最後の部分を渡した。

~騎ノ風の歴史最終章~
その後の騎ノ風藩では著しい発展がみられ、4つの一族にも変化が見られた。石原一族は騎ノ風藩の中央部に新たな神社を建設し、そこで石原一族の中で最も頭の優れた女性だった石原弥生を祭ることにした。弥生は騎ノ風藩建設後、後続の育成のために学問を学べる施設として寺子屋石原を1608年に建設。これが後の騎ノ風総合大学である。また、石原の名をたたえるために石原一族は一族の姓を神宿に改めた。現在も石原神社で暮らす神宿の一族はこの石原一族の子孫でもある。
城南一族は工業に力を入れ、数々のからくり装置を作り出した。現代に存在する家電や生活用品の基盤を作ったのは城南一族だとされている。
また、遠くの地に城南という地名があることを聞き入れた一族は、一族の姓を南星に改めた。1900年代ではバイクや自動車の開発に乗り出し、株式会社サウスモーターを設立した。
神崎一族は騎ノ風藩の長になったのが神崎悠里であったこともあって石原一族と共に政治を動かすことを中心に行った。もちろん芸術の心を忘れず多くの芸術家を輩出したことも記憶に新しい。また、雷一族のうちの一つである雷久保一族と共同で芸術の発展を行った。また、彼らをサポートするために闇雲という姓を名乗る一族が生まれた。この制度を始めたのは悠里の孫の長女である御雲(神崎)沙織であり、一度の結婚でひどい目にあった経験からこのような立場に立ったとされている。現在の騎ノ風地域にいる闇雲姓はいずれも彼女の子孫である。
雷一族は漁業に加え、商業や農業に力を入れたとされる。また、彼らは役割分担も兼ねて4つにの家系に分化したとされている。まず、漁業を担当する雷電一族。彼らは後に漁業へ行くのに何日もかけているのを不便に感じ、騎ノ風藩を出て海の方へ移住したとされている。彼らの子孫が現在生きているかどうかは不明である。次に商業を担当する雷久保一族。この一族は商業に加え神崎一族と協力して芸術の発展させたため騎ノ風の地域に残っているが、子孫に恵まれなかったため、数は非常に少ないとされている。最後に風見藩の開発と農業を中心に行った雷門一族。元々数は多かったものの、彼らも雷久保一族と同様子孫に恵まれず、現在でも騎ノ風地域に子孫が残っているかどうかは言い難い。また、騎ノ風藩末期には色部という一族がおり、彼らは雷久保の一族から別れた親戚だとされる。しかし、色部一族が具体的にどのような活動をしたのかなどはいまだに不明のままである。
その後1871年に廃藩置県が発生。武蔵の国が埼玉県(さきたまけん)に置き換えられると同時に騎ノ風藩は騎ノ風村、白見台村、月詠村、城南村、神崎村、飛鳥村、樹村、小日向村、雷門村の10の村を合併させ騎ノ風町とした。その後、1979年に騎ノ風町は人工が増え、周囲との合併も繰り返したことにより騎ノ風市となり、20××年に近代化のための工事が著しく進み、田園を埋め立てビルが立ち並ぶ現在の都会騎ノ風市が誕生したのだった・・・

ア「和琴サンよくここまで調べましたね・・・」
櫻「それにしても和琴ちゃんの言うとおり何個か引っかかる名前が出てきたね・・・」
わ「よく気づいたわね塩車。まず石原一族は確実に神宿の先祖よ。あいつの家である神社に祭られているのは石原弥生・・・騎ノ風総合大学を作った人よ。次に神崎一族だけど、おそらく闇雲の先祖ね。闇雲沙織は肖像画を見た限りだと闇雲の奴にそっくりなのよ。それに彼女は元は神崎一族だったと記載されているわ。だから姓が変わっても子孫が続けば神崎一族ってことになるわ。」
ア「咲彩サンと凛世サンにはそんな秘密があったんデスね・・・」
櫻「本人たちは知ってるのかなこのこと・・・」
和「話を戻すわよ。城南一族は紛れもなく南星の先祖ね。実際今では会社名は違うけど彼らが設立した株式会社サウスモーターは今でも残っているもの。自動車開発からは撤退したみたいだけど。最後に雷一族は・・・雷久保と色部の先祖になるわね。まさかあの2人が遠戚だったなんて驚きね。」
ア「だけど、嘉月サンと柚歌サンそれなりに仲いいデス。」
櫻「案外惹かれあってたりして・・・」
和「2人とも恋人は別にいるし、そんなことはないと思うけどね・・・雷久保には鷲宮がいるし、色部には西園寺がいるわけだから。さて、あたしが調べられたことはこれぐらいね。」
ア「和琴サン、今日は色々なことを知れて楽しかったデス!」
櫻「自分も・・・別の町の児童養護施設で育ったもんだから、騎ノ風市の歴史なんか知らなかったし・・・久しぶりに面白い物を読ませてもらったんだ、今日は2人に自分の最近行きつけの店で飲み物をおごるよ。」
ア「いいんデスか?」
櫻「いいのいいの。最近自分絵本向けのイラストを投稿してお金稼いでるから。」
ア「ありがとうございマス!和琴サンも行きますよネ?」
和「そうね・・・歴史書書きすぎて疲れちゃったし、息抜きに行ってみようかしら。」
櫻「ありがとう和琴ちゃん。」
和「だけどまず片付けが先よ。すぐ終わらせるから待ってなさいね。」
和琴はそう言うと使った書籍やノートの片づけをし始めた。彼女は片付けの最中自分で書いたノートを手に取るとこんなことを考えた。
和「(これ明日にでも神宿たちに読ませて色々聞いてみようかしら。)」
しかし、和琴のそんな考えは彼女を待つ2人の呼びかけによって中断される。
ア「和琴サン早く行きまショウ!」
櫻「置いてっちゃうよ~。」
和「はいはい・・・全く、図書館では静かにしなさいよね。」
和琴は手早く片づけを済ませると、ラニーたちと共に図書館を出るのだった。

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