夏の終わり

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8月終盤の騎ノ風市では人の行きかう姿が増えつつある。今年も夏の終幕がやってきたのだ。
愛麗たちは残り少ない夏休みを地下書庫で過ごしていた。
麗「あーもうすぐ夏も終わりかぁ・・・」
嘉「また来年あるやん。」
麗「そうだけどさ、この時期が近付くと虚しくなるっていうかなんていうか・・・言葉にしづらい気持ちが出てくるのよ。」
和「分かるわそれ。なぜか虚しくなってくるのよね。」
奈「ですが、わたくしたち今年も色々楽しいことをしたではないですか。無人島に行ったり、アニメの原画を買いに行ったり・・・」
麗「無人島はできれば思い出したくないけどね。」
凛「まさか平穏人生の会が復活していて、新しい首領が愛麗のお父さんだったなんて驚きでしたよね。」
麗「いや、あのバカの事はどうでもいい。」
和「じゃあなんで思い出したくないのよ?」
麗「凛世が・・・凛世が怖かったの・・・」
凛「えっ・・・」
嘉「愛麗ちゃんのお父ちゃんに向かって強迫かけたあん時かぁ。」
奈「あの時は凛世さんから黒いオーラが湧き上がっているように見えましたわ。」
凛「そうでしたか・・・今後は愛麗が怖がらないように気をつけますね。」
麗「別に気にしなくていいわよ。あの感情はあたしに向けられたわけじゃないからね。
それにあの馬鹿がへっぴり腰で逃げだしたの見てすっきりしたし。」
和「確かにあれは情けない感じよね。あんなろくでもない大人は救いようがないわよね。」
麗「そのろくでなしの血をあたしは引いてるんだけどね。」
和「あっ・・・」
奈「愛麗さんはおじい様とおばあ様に似たのだと思いますわ。」
嘉「せやで。愛麗ちゃんは隔世遺伝の要素が強く出たんやよ。」
凛「愛麗の見た目はおばあ様とそっくりですものね。」
麗「隔世遺伝か。まあ確かに思い当たる部分はあるけど・・・馬鹿の血が表面に現れなかったのは良かったかな。」
和「ごめん南星・・・」
麗「なんで謝るのよ。悪意がある発言してるわけじゃないんだから気にしてないわよ。」
奈「そういえばみなさん、集まらない日は何をして過ごしていたんですの?」
嘉「ウチはいろんなとこに写真を撮りに行ってたで。」
凛「自分の感じるままに作曲してました。」
和「あたしはカウンセリングして恋愛小説読んでたかな。もちろん百合の。」
麗「ジオラマの政策に専念してたわ。」
奈「嘉月さん以外は皆家にいたんですのね。」
嘉「奈摘ちゃんやってずっと家で漫画描いてたんやないの。」
奈「ええ。もちろんアニメを見ながら漫画を描いてましたわ!」
麗「それ胸張って言うことなの?」
凛「ですが、打ち込めるものがあるというのは充実している証拠ですよね。」
和「そうね。ただだらけて夏休みを過ごすやつほどあとで後悔す・・・」
和琴がそこまで言いかけたその時、地下書庫の扉が開く音がした。
嘉「ん?誰か来たんかな?」
禰「おひさ~!誰かいる?」
麗「その声は・・・禰恩さん?」
禰「おー愛麗に凛世に和琴に奈摘に嘉月。元気してた?」
真「私もいますので。」
入ってきたのは騎ノ風市で人気のアーティストコンビneomarinの2人だった。
この2人は以前愛麗たちに助けられてから暇なときはここに出入りしているのだ。
禰「それと今日はもう一人連れてきちゃったのよね。」
奈「もう1人とは?」
禰恩が促すと真凛の後ろに隠れていた女の子が顔を出す。
真凛や禰恩よりも小柄で見た目は柚歌に似ており、髪型も同じお団子である。
?「あの・・・えと・・・」
禰「紹介しておくわね。あたしたちの妹のこよりよ。ちょっと話すのは苦手なのよ。」
真「十女です。これでも大学教授なんですよこの子。」
こ「教授じゃなくて講師だよお姉ちゃん。それに大したこと教えてないですけどね・・・」
麗「専攻はどの分野なんですか?」
こ「ええと・・・近代美術を中心に教えてます。」
奈「近代美術と言いますと、どのあたりなのですの?」
こ「漫画絵とか萌え絵とか・・・一般的にオタク系の絵の描き方ですね。」
嘉「奈摘ちゃんすごい人来てくれたやん!」
奈「そうですわね。こよりさん・・・わたくし漫画家の端くれなので今日はいろいろとお話聞かせて下さりませんか?」
こ「漫画家さん・・・なんですか?」
奈「はい。これが今までわたくしが書いてきた漫画ですわ。」
奈摘はこよりに現行と思われる紙を何枚か渡した。
こ「へぇ・・・さすがプロの方。上手に描けてますね。」
奈「いえ、わたくしはまだまだですわ。それに書いてるものも同性愛ばかりですし・・・」
こ「同性愛も素敵だと思いますけど。気持ち悪がる人は何を言っても否定ばかりですし。
それに、天宮城さんのような人の方が漫画家業界では生き残りやすいって言われてるんですよ。
自分の好きなものを好きなようにかけているんですから。」
禰「こよりがこんなにしゃべってんの初めて見た・・・」
真「普段は大学講師ですし、これぐらいだったら普通にしゃべれると思いますけど・・・」
こ「とにかく、自分は好きです天宮城さんの漫画。電子書籍版を購入して読ませていただきますね。」
麗「こよりさんは他にはどんなことに興味があるんですか?」
こ「そうですね・・・橋とかダムのような建造物の写真を集めることですかね。あとで落書き程度の絵を描こうと思ったときに書きやすいんです。」
凛「ですが、建造物の絵は萌え絵ではないですよね?」
こ「そうなんですけど・・・たまに息抜きしたくなるんで。みなさんもありませんか?時折自分のジャンル以外の絵を描きたくなることって。」
奈「わたくしはありませんわね。美少女一本でこれからも描いていきますわ。」
凛「私は絵をほとんど描かないので何とも言えないです。」
嘉「ウチも・・・」
こ「難しいこと言ってしまいましたかね。すいません・・・」
禰「それより凛世、あたしの作曲した新しい曲を聴いてくんない?あたしの周りあんまり音楽わかるやついなくてさ・・・」
凛「はい、いいですよ。」
禰「じゃこのプレイヤーに入ってるやつなんだけど。」
禰恩は凛世にミュージックプレイヤーを渡してその曲を一通り聞いてもらった。
禰「・・・どうかな。」
凛「すごく素敵です・・・聞いてる私まで曲の中に入り込んだ気分です。」
禰「ねえ凛世、貴方って・・・左耳難聴って聞いたんだけどどうやって音楽を聞き取ってるの?」
凛「それをどこで・・・禰恩さんに話しましたっけ?まあいいです。私の難聴は後天性なのである程度は聞き取れるものなのですよ。」
禰「へぇ・・・確かに流暢にしゃべるものね凛世は。」
凛「昔は普通に聞こえていましたから。」
禰「色々と苦労してるわね・・・」
麗「凛世と禰恩さん仲良くしてて楽しそう・・・」
真「それなら愛麗さんは私に協力してください。」
麗「何を協力すればいいんですか?」
真「私はこれでも本業作家な物で新しい話を今考えているんですけど思いつかなくて・・・なので、ちょっと失礼します。」
真凛はそう言うと愛麗に覆いかぶさるように抱きついた。
麗「ちょ、真凛さん!?」
真「今書いてるシーンがちょうどこんな感じで恋人が抱きつくシーンなんです。」
麗「そうなんですか・・・」
真「それじゃ、もう少し失礼して・・・」
真凛は愛麗の胸を掴むと優しく揉む。
麗「真凛さん何してるんですか!」
真「あ、すいません・・・ですが私恋人いたことなくて。胸を揉むっていう感覚が全然わからないのでついつい愛麗さんに・・・」
麗「それならまあいいですけど・・・実際にやってみるっていうのは創作に大事なことだと思いますから。あたしも小説ジオラマ脚本といろいろやってるんで。」
真「意外ですね。愛麗さんもっと怒るかと思ってました。聞いた話だとすごく短気だって聞いたので。」
麗「いや、状況にもよりますよ?今回は真凛さんが創作のためにやっていることなので別に怒らないだけ。
ただのいたずらでやっていたら・・・ただでは済まなかったかもしれないわよ?」
真「ひっ・・・これが殺気という物なのでしょうか・・・」
麗「信用している真凛さんを殺すつもりなんてないってば・・・」
和「全く、みんな揃いもそろって仲いいんだから・・・はい、お茶とお菓子持ってきたから食べて。」
禰「ありがと和琴。ありがたく食べさせてもらうわ。」
真「こら禰恩、あまりがっついちゃだめですよ。」
和「いいのよ。買い置きまだたくさんあるから。」
こ「まめなんですね和琴さんは・・・」
凛「そういえば禰恩さんたちって14姉妹でそれぞれが私たちに似てるとおっしゃってましたよね?」
禰「そうね。あたしたちの姉妹もあんた達に初めて会ったときなんだか高校時代に戻った気分になっちゃったわよ。」
麗「・・・和琴に似ている子っている?」
真「いますよ。私のすぐ下の妹で三女の翠子っていうのがいるんですけど、髪型も三つ編みで背も高いので和琴さんにそっくりです。」
和「そうなんだ・・・」
禰「だけど翠子姉ってすごくドライで怖いのよ。少しでも気に入らないことがあるとすぐ怒るし・・・」
こ「私も何度か怒られたことある・・・すごく怖い・・・」
真「え、そうなんですか・・・翠子がそんなことするタイプだと私知りませんでした。」
禰「真凛姉と翠子姉は仲良かったからね。衝突することもなかったんじゃないの。」
真「そうかもしれません・・・それと、翠子に昔春南のせいでいじめを受けるって相談されたことがあるんですよね。」
和「え・・・いじめがあったの?」
真「はい、私たちは14人姉妹という大所帯であったために私立の学校へは進学できなかったんです。」
禰「それで全員特待生で大学まで行ったのよ。なかなか大変だったわ。」
こ「それで真凛姉さん、春南姉さんのせいで翠子姉さんがいじめにあっていたっていうのは・・・」
真「2人も知ってのとおり、春南姉さんはなんでもできてしまう完璧な方です。なのでできのあまりよくない私たちは春南姉さんと
比べられることも多かったです。翠子は姉妹の中でも可愛いけれど地味な感じの見た目をしていたので、男子からいじめにあっていたそうなんです。」
凛「人を見た目で判断するなんて最低ですね。」
真「特に私たちの学年は荒っぽい男が多くて、派手とかけ離れた翠子は春南姉さんと比べられて毎日のように嫌がらせを受けていたそうなんです。
先生に相談しても公立の教師は事なかれ主義も多くて、翠子の訴えを全てもみ消したんです。」
禰「それが翠子姉をドライな性格に変えてしまったのね・・・」
真「そうです。翠子は今でも多数の人間に支持されるものが嫌いだそうです。酒、タバコ、車・・・全部嫌悪感があるそうで普段はコーヒー飲んでガム噛んでバイクに乗ってるらしいです。」
嘉「辛い日々にずっと耐えてきた反動なんやろうな・・・」
麗「翠子さんって今何をしているんですか?」
真「個人でウェブデザイナーをしていますよ。サイト作りの技術力も非常に高いそうです。ただ、自分の作ったサイトにダメ出しをされるとすぐ怒ってしまうみたいで・・・なかなかうまくいっていないと電話越しに言われたことがあります。」
奈「ですが、1人で働く道を選らんでその道を実現しているのですからとても行動力が高く見受けられますわ。」
真「ええ、翠子は学生時代絶対会社で働かないし教師にも公務員にもならないと強く言っていました。前に私たちの母校が翠子の技術力どこで知ったのかホームページの制作を依頼されたみたいですけど恨みつらみを書いた文を叩きつけて断ったそうですから。」
嘉「当然の報いやな。自分を悪く扱った学校になんか協力したくないやろうし。」
和「それよりも、翠子さんをいじめるきっかけとなった春南さんは当時何してたのよ?」
真「春南姉さんは春南姉さんで長女ということもあって完璧に振る舞うのにかなり疲れていたみたいです。なので翠子のことをフォローしきれず、かなり喧嘩になっていたことも多かったです。私は2人と自宅の部屋が同室だったのでそんな状況を毎日見ていました。けんかを止めなければならないこともありました。ですが今では2人とも落ち着いたのでよかったです。翠子のドライで冷たい部分は残ってしまいましたが・・・」
禰「この時色々あったから翠子姉は母校の公立小学校のある北区には近寄ろうとしないのよね。」
真「そこはどうしようもないことです・・・あ、禰恩。そろそろ番組の収録に行く時間ですよ。」
禰「あ、ほんとだわ・・・行かないと番組打ち切りになっちゃう。」
こ「それなら私も帰ります・・・大学に帰って論文書かなきゃいけないので・・・」
真「それではみなさん今日はいろいろありがとうございました。」
禰「また来るわね~!」
そういうと禰恩たちは地下書庫から出て行った。
和「今日は色々な話を聞いちゃったわね・・・」
奈「禰恩さんたちも様々な苦難を乗り越えて成功したんですのね。」
麗「明日からまた学校かぁ・・・そういえばみんな宿題やった?」
凛「もちろんです。」
和「あたしは一週間で終わらせたわ。」
奈「わたくしも少しずつやりましたわ。」
嘉「ウチもおわっとる。愛麗ちゃんは?」
麗「とっくよ。それに水晶学園は目標へ向けての自主的な活動が推薦されてるから宿題自体少ないしね。」
和「よくアニメだと宿題終わってない~!って苦しむ子見るけど結構な自業自得よねあれ。」
凛「遊びまわってばかりで宿題忘れたというのはちょっと・・・情けないです。」
麗「あたしも同意。それじゃ時間も遅いし、今日はもう帰ろうか。」
奈「あら・・・もうこんな時間ですのね。」
凛「それではまた明日。」
和「うん、また明日ね。」
愛麗たちはまた明日と言葉を交わし、それぞれの家に帰って行ったのだった・・・

次の日の始業式の終了後・・・
鮫「お前たち、始業式の後だがさっそく宿題を集めるぞ。」
鮫川先生は手際よく愛麗たちの宿題を回収する。
鮫「お前たちちゃんと全員やってきてくれたんだな。」
柚「先生なんでそんなに喜んでいるの?」
鮫「いや、以前いたクラスだとやってきてなーいとかいう奴が多くてな・・・嬉しいのさ。」
陽「2組ってそんなに不真面目な子多かったっけぇ?」
麗「それにこれ自由課題だから好きなことを研究してレポート書くだけなのにね。」
鮫「成績良くてもこういうのを嫌がるやつは多いんだよ。とはいってもしっかりやってきてくれたお前たちには関係ないか。それじゃ、出席を取るぞ。」
少し爽やかな秋の風とともに水晶学園の2学期は始まって行くのだった・・・

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